290話
自慢ではないが、自分の立ち位置というのはこの店ではおそらく『普通』なのだろう。どれかに特化しているわけでもなく、ある程度にある程度をこなすことができる。器用貧乏みたいな。アニーのような特殊なものもなく、ユリアーネのような行動力もない。言ってしまえば、店長の下位互換、みたいな。
ようやく本題に切り込める、とダーシャ。
「簡単に言えば、味付けを紅茶にするかコーヒーにするか。迷ってるわけで」
この店といえばこの二つ。本物の店長とオーナーが鎬を削って売り上げを狙う。ドイツといえばコーヒーだが、紅茶も少しずつは勢力を拡大中。両方いっぺんに出すか、それともひとつずつにするか。意見を取り入れていこうという構え。
〈ヴァルト〉では、一年後にもし紅茶の売り上げが勝っていたら、それをメインとしたお店に変わるとのこと。コーヒーならそのまま。未成年の二人が勝手に決めた。面白そうだからそれに大人が乗っかっている状態。
しかしカッチャにとってその問答は、どうやら賃金には入っていないらしい。やる気もない。
「はぁー? 両方すれば? そうすれば納得するんじゃない?」
クリスマスマーケットの今は、観光客含め財布の紐が緩くなる。紅茶党の人もいつもより多くベルリンにいるかもしれない。なら、この機会をどっちが先とか言って譲ってる場合でもないのでは、と思う。
「まぁ、そうなんだろうけど」
なんともはっきりしない口調であることはダーシャもわかっている。ちょっとだけ目線は上へ。
その様子をカッチャは見逃さない。なにか言いづらいことでもあるのだろう。予想。してみる。以前、二人の間であったこと。
「まーたケンカでもしてんの? どうせしょうもない理由なんでしょ」
あの時はやたらとアニーがユリアーネに対して執着していて。まぁ、同じような志のライバルであり親友、だから仕方ないっちゃないけども。自分が間に入って仲裁した過去。
しかしあれはなんだったんだろう、と今でも考えることがある。




