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14 Glück 【フィアツェーン グリュック】  作者: じゅん
ビリヤードとダーツ。
286/319

286話

「別に」


 刺々しくカッチャは返す。別にこいつに原因があるわけでもないけど。ちょうどいいタイミングにたまたまいるから、悪いと思いつつもちょっとだけストレスをぶつける。あとでこっそりなにか奢ろう。


 四秒かけて息を吸い、四秒息を止め、四秒かけて息を吐く。なにかで見た正しい深呼吸の方法。繰り返すとカッチャは平静を取り戻してきた。なにをあんな子供に乱されているんだか。


「おまちどうさま。ごゆっくり」


 そう言ってトレンチからコーヒーを提供。ごゆっくり、とは言ったが、またなにか絡まれても面倒。本心ではさっさと帰ってほしい。自分が同じくらいの年齢の時はオレンジジュースとかだった気がする。コーヒーはまだ早い。


 軽く感謝を伝えつつ、少女は飲む前にまたさらに雑談に入っていく。


「実はアニエルカから、ここで働かないかって誘われててね。いい店だ。お姉さんも、雰囲気も。名前を聞いてもいい?」


「はぁ? あいつ……!」


 意外な名前が出てきてカッチャの脳が一気に沸騰する。あいつの差金か。睨め回すように目の前の少女を確認。だが、なんだか完全に地球外生命体ではないようで安心でもある。輪郭が掴めた。なにかズレた人物、なのだろう。よく考えたらあいつも自分の飲みたいものを当てる達人だった。納得。


 相手が複雑な感情を持ち合わせている。その様を見るのは、少女にとって心地いいもので。


「僕はリディア・リュディガー。彼女達の後輩だよ」


 ようやくコーヒーをひと口。苦味と酸味のバランス。なるほど、色々な店のを味わったことはあるが、一番好みかもしれない。


 はぁ、と魂ごと吐き出したかのようなカッチャは、諦めにも近い決心。


「……カッチャ・トラントフ。てか、後輩ってことはあんた、あいつらより年下?」


 あいつら、とはアニーとユリアーネ。この二人でもギリギリだったはず。ということは。一応、何歳から働くことができるかの法律はあるわけで。

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