283話
相手が唖然としているにも関わらず、少女は気にせず続ける。
「そうだね、学校……大学に向けての勉強をしたいから、この店を辞めようかと考えている。でもとても居心地がいいから、さてどうしようか。こんな日は酒でも飲まなきゃやってられない」
っていうのはどうかな? そんなストーリー。
店内、他の客。カップをソーサーに置く音。雑誌のめくる音。様々な音。それがカッチャの耳に残る。
「……なにが?」
「なにを飲もうか。テキーラでもガッといきたいけど、まだ仕事中。あまり強くなく、それでいてキリッとしたものよりかは、包み込まれるような甘い、ショコラーデのようなお酒なんかいいかも。ここはカフェだ、となるとコーヒーのカクテルなんかいいんじゃないかな」
ひとつ話が進んでしまうと、どんどんとそこから派生して物語が先へ。水を得た魚の泳ぎのように。スイスイと。大海へと広がりを見せていく。
「……注文は?」
心臓が。嫌な速度。なんだ、この子は。とりあえずカッチャは、楽しんでいるところをぶった切って役割を全うする。ここはカフェ。ヴァルト。安らぎの場所。目の奥が。痛い。
自分の世界に浸っていた少女だったが、ここでようやく目を合わせる。そして候補をあげる。
「となるとアイリッシュ・コーヒー、エスプレッソ・マティーニ……」
「……」
ピキピキ、とカッチャの表情が痙攣。笑顔のような怒りのような。なんといえばいいか自分でもわからない感情。なに? なにかのドッキリ? テッテレー、とか言いながらパネルを持った誰かが乱入してくる?
その微妙な揺れ。口にした二つはハズレている。そう少女は確信。ならば。
「いや、クイーンズ・ガーター……かな。間違いないね。僕にも頼むよ」
これが自分の出した答え。クリームの美味しいコーヒー。うん、中々いいかも。アルコールも適当だ。




