267話
スリランカ、という国がある。インド洋に浮かぶ島国であり、国の中央に存在する二千メートル級の高原地帯の影響で、南西部と北東部は気候が逆になる熱帯性モンスーン気候。毎月ポヤデー、別名『満月の日』という休日があり、この日は宗教的に酒類の販売が禁止とされるほど戒律が厳しい。
そしてこの国で有名なもの、といえばセイロンティー。スリランカの紅茶の総称。元々は国名がセイロン、というものだったこともあり、そこから名前が取られた。他の国の茶葉と比べても、水色・味・香りにおいてバランスがよく、世界中に広く普及しているものの多くはこれにあたる。
標高の高さによって味と香りが変わることでも知られている。ハイグロウンは香りと渋みが強く、ローグラウンは濃厚な味わい、ミディアムグラウンはその中間、と分けることができ、特に『ヌワラエリア』『ウバ』『ディンブラ』『キャンディ』『ルフナ』の五大生産地を筆頭に、世界でもトップクラスの生産量を誇る。
そんな紅茶の代名詞でもあるスリランカだが、元々はコーヒーの栽培でも有名であった。一八世紀に始まり、一九世紀中頃には世界でも有数の産地になったものの、コーヒーの木に発生する『さび病』によって衰退。紅茶へのシフトを余儀なくされた。
しかし完全に撤退したわけではなく、ごく限られた量でのみ生産されている。その中でもアラビカ種の原種とも呼ばれる『ティピカ』という、世界的に希少な種の栽培も行っている。コーヒー業界で働いている人でも、中々純粋なティピカはお目にかかれない。それほどまでに貴重な味わいなのである。




