264話
なんだか彼女らしくて、納得しつつもその天然加減はユリアーネを照らしてくれる。
「なんですかそれ」
きっとベルリン戻っても、ようやく慣れてき始めたパリの天気を見てしまうのだろう。毎朝確認してあげなければ。気温差を間違えたら風邪をひいてしまう。
そのままベッドに二人腰掛けつつ、この時間を楽しむ。とはいえ夜も深まりつつある。欠伸をどちらからともなくしたり、うとうとと船を漕ぐ。
少しずつ、さらにゆっくりと香りが室内に大きく広がるにつれ、我慢ができなくなってきたアニー。机の上の三色の缶から、眠そうな目が離せない。
「寝る間に一杯どうっスか。ボクは白にしようかと」
寄りかかるユリアーネに優しく声をかける。全ての行動がまるで水の中にいるような、宇宙空間にいるような、時間の流れが遅く、ずっと続く気がする。続いてほしい。もしこの時をタイムカプセルに閉じ込めておくことができれば、また味わえるのに。
「? ユリアーネさん?」
ずっしりと全体重をかけるかのように、隣から崩れてくる。小さな寝息をたて、ユリアーネはアニーに寄りかかる。
「寝てるっス」
働いてきたことと、自分とは違いしっかりと授業を受けている事。時間も時間。紅茶のいい香り。炎のゆらめき。寝る条件は揃っていた。
「仕方ないっスねぇ」
そう言いながらもアニーは笑んで、寝ているユリアーネを横にする。本来であれば自分が下のベッドなのだが、今日は上で。その前に紅茶。いただいてから。コンパニー・コロニアルの紅茶を前にして我慢なんて、そんなの無理に決まっている。
「ユリアーネさんが悪いんスよー、寝ちゃうから。開けちゃいますねー」
プレゼントしたものだが、まぁ、後日怒られることはないだろう。たぶん。気分は白。ホワイト・グリーンティー。缶を持ってキッチンへ。行こうとしたその時。
「——」
自分の名前を呼ばれた気がした。起きたのだろうか。確認すると、やはりそのまま寝ている。ただの寝言。
「なんだ、ユリアーネさんも飲みたくなったのかと思ったっス」
まだ出会ってそんなに経っていないけど。きっと。これからも。
「……おやすみなさいっス、ユリアーネさん。明日も頑張りましょう」
明日も。来週も。来年も。その先も。
これからもずっと一緒にと願って。




