253話
それでもアニーは全く問題としていない。というのも。
「いえ、フェロモンの香りはまた違うのでわかりやすいんです。詳しいことはボクはさっぱりっスけど、そこから直感で選びます」
ということなので続行。それにしてもいい香りがする。香水だけではなく、体が魔力を持っているような。そんな香り。
フェロモンを感知するのはヤコブソン器官という、鼻腔下部に存在する部分。爬虫類や齧歯類などには多く見られ、人間にはすでに退化しているはずのものだが、アニーは突然変異的に当てはまらず、とはいえ『なんとなく』程度だが、嗅ぎ分ける力がある。
そして嗅いだ相手がその対象について、どんな想いを抱いているのかがやはり『なんとなく』わかる。そこから彼女独自に発達していった、紅茶への執着心から結びつけていく。
こうして嗅がれることはシシーにとっては嫌いではない。この子であれば。もっと近づいてもらっても。
「そんなこともできるんだね。占い師としても大成できそうだ」
百発百中の伝説的な。グランゼコールなんかよりもよっぽど魅力的。自分だったら欲しいようなそうでもないような難しい能力。だって全てがわかってしまったらつまらないでしょう。
たっぷりと香りを吸い尽くし、満足という顔つきになるアニー。また思い出して反芻したいほどに充実した時間。
「いや、できるかどうかはわかんないっス。こういう使い方をするのは初めてなので。でも多分、できます。わかるんです」
やったことはないが、不思議と自信がある。なるほど、やっぱりこういうこともできるんだ、という再確認にもなった。
「信じるよ。そのためにお願いしたんだから」
喧騒の中でシシーはこの少女に信頼を置く。一点の曇りもなく。
目を閉じ、最適なものを選ぶアニーは、ひとつひとつ脳内で試し、違ったと思えばまた他のもの。パズルのピースを埋めるように。
「……そうっスねぇ……一番は……」
「たくさん種類があるけど、ひとつひとつ試さなくていいのかい? 時間は全然あるから、ゆっくりでいい」
そのためにここを選んだ、というのもあるのだろう。いくつあるのかもわからない店舗。シシーは焦らなくていいと落ち着かせる。




