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243話

 立ち上がり、ゆっくりとシシーは小さな、簡単に壊れてしまいそうなほどに華奢な少女に近づく。


「愛を知らなくては、ね。この曲は弾けない。それで俺はね。愛に破壊されたい、奴隷にされたいんだ。パウロ・コエーリョの言葉がチラつく。ならばどうすればいい? どうすれば俺だけの『愛の夢』を奏でられる? で、考えたんだ」


 そこで出た結論。たどり着くために必要なキーパーツ。その大事な大事な輪郭を指で優しくなぞる。


「……シシーさん……?」


 髪。頬。されるがままに。手を取られ、今度は相手の頬に触れる。しなやかで。眩しくて。アニーにとって初めて嗅いだ香り。


 やはりか、とシシーは驚きつつも納得の表情。これは確認。そして確定。


「……アニエルカさん。キミは一体何者なんだろうね」


「……?」


 なんの、ことなのだろう。嬉しいような、安心のような。今度はそんな香りがする。まるで春の日差しを浴びながら散歩でもするみたいな、そんな穏やかな日々が頭の中に流れ込んでくる。


 耳元で囁くシシー。甘く。蕩けるように。


「キミは俺にとって特別だ。キミしかいない。だってキミは——」


 だってキミこそが。


 壊して。愛で。

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