237話
なにやら面白そうなことをやりそう。それを文字通り嗅ぎつけたアニーは、やる気が漲ってくる。
「となると、ここはボクの出番っスね。ドイツ流に、ビーネンシュティッヒでも! 紅茶味で」
蜂のひと刺し、を意味するドイツを代表する焼き菓子。お礼をするにもドイツ流。ぜひとも味わってもらいたい。
この人らしい、とユリアーネも納得。と同時に、思い返すと引っ掛かるものが。
「蜂……そういえば、プリンをいただいたときのタンブラーにも描かれていました。お返しにはピッタリかもですね」
最古のガラスメーカーとかなんとか。アニーさんかオリバーさんならなにか詳しいことを知ってそう。今更ながらそんなことを思い出した。
その理由。ピンときたものがあるアニーはその説明を買って出る。
「なんでも、蜂はフランスでは幸せの象徴だそうです。今のボクも幸せっスねぇ」
もらったコサージュに触れてみる。そこにたしかな幸福を感じる。指先から感じ取ることができる。
ちなみにベルリンでは蜂は非常に多い。夏のテラス席には必ずといっていいほどに飛んでいる。が、小さなミツバチであることがほとんどで害はない。むしろ、ドイツでは動物愛護の対象でもあるので、たとえ大きな刺してくる蜂であっても殺すことは禁止されている。
目の前の少女が笑顔になると。やっぱり自分にも伝播してくる。そんなことをユリアーネはわかっていたが再認識。
「ところで最近、蜂とか蜂蜜とか。なんだかよく話題にしていますね、私達」
あまり虫は得意ではないのだけれど。蜘蛛とか。益虫だということは知りつつも、携帯などで画像検索するのも少し億劫。
対してアニーはあまり気にしない。ほぼ見かけないけどクワガタなども飼いたいくらい。ちなみにドイツはそれも禁止されている。
「そうっスか? 無意識ですね、でも蜂蜜はコーヒーにも合うって言ってましたし、飲んでみたいっス。ぜひそのお花屋さんにも茶葉を持っていって、紅茶の良さを教えましょう」
桜に合う紅茶。やはりスリランカのキャンディなどの渋みの少ない茶葉がいい。かもしれない。いやいや、あえて正反対のウバも用意して、より味が引き立つような。など考えるだけでも楽しい。




