234話
こうして二人きりになった。立ち去ったあとのドアベルが不穏な空気を告げる。響く店内。ピリッとした緊張感。
外にお互い視線を向けながら、まずリディアが口を開く。
「言いたいことがありそうだね。そんな威圧を感じる」
先ほどから感じていた怪訝な雰囲気。だがその意味もわかっている。だからこそ聞かれないようにユリアーネには配慮した。
怒りでもなく呆れでもなく。少し落胆したようなベアトリスの口調。
「……店名の〈ソノラ〉が意味するもの。それは〈音〉だ。花の声を届ける。そしてエンゼルランプ、学名はカランコエ・ユニフローラ。白いほうはシレネ・ユニフローラ。花言葉は全く違う。わかってやっているんだろう」
コサージュをユリアーネに提案をした時、ついでにリディアが悪戯な視線を投げていたことに気づいていた。悪意。だからこその確認でもある。
それだけで察知できたんだね、と喜ぶリディア。まるでシシーと会話しているかのような腹の探り合い。滾るものがある。
「さぁね。花言葉なんて誰が言い出したのか、受け取った人が気持ちよく過ごせるならなんでもいいじゃない?」
問いをするりと躱す。たしか確実にこれ、というものは定められていないはず。なので国によっても違ったりする。なら、いいほうに捉えても問題ないだろ?
それもそうなのだが。変に不安を煽る必要はない。彼女のためを想うならそれでいい、ということはベアトリスにもわかっている。が。
「……危うい、ということか。私には関係のないことだがな。そっちの言う通り、幸せになれるならなんでもいいというのは同意する」
なんなんだこの人物は? 底の見えない闇を覗いているような、そんな苦しさも同時に。
そしてポケットにしまった髪紐を取り出すリディア。特にプレゼント用に包んでいるわけでもないので、直接手のひらに乗せる。
「この花も。ローレンティア。花言葉は『猛毒』。ぴったりなんだよ彼女に。こんなの、作った方が悪い。ぜひとも会わせてみたいね、ベアトリスと」
舌なめずりをしつつ再度ポケットへ。甘美な毒。さぞかしシシー・リーフェンシュタールという人物に似合うのだろう。想像するだけで体が熱くなる。
「興味はない」
そう吐き捨てたベアトリスは踵を返してタンブラーなどを店奥のシンクへ。曇った顔つき。ユリアーネに見せないでよかった。




