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230話

 全員食べ終わったところで軽く雑談を挟む。口火はリディアが切っていた。


「ねぇ、これらって売り物? 買えるの?」


 これら、とは店内に数えきれないほどあるアレンジメント。バラから菊からなにからなにまで。見てるだけでも楽しい。意味を考えるとまた楽しい。


「いや、ここにあるものは全て私達の趣味だ。売り物ではない」


 それゆえに『おまかせ』専門店。これにベアトリスは誇りを持っている。変えるつもりはないし、これからもずっとそう。


 という意志を無視して、色々と動き回るリディア。その中で目をつけたものがある。それを掲げる。


「これ。この髪紐。欲しいんだけど。あげたい人がいるんだ」


 手にしていたのは、切り花を容器に入れたアレンジメントではなく、ひっそりと置かれていた、髪を結ぶ紐の端に造花が施された逸品。なにか面白いことをやろう、として作ってみたもの。なんとなく置いておいただけ。


 しかし、それを見たベアトリス。一瞬だけ目を見開く。


「……プレゼントだと? その花の意味、わかってやっているのか」


 売らないと言っているのに、という呆れではなく、そこに込められたメッセージが。苦虫を噛み潰したような険しい表情を作り出している。誰かに贈ることは想定していなかったもの。売り物ではないのだから。


 意味。そんなことは当然ながら。口元を歪めてリディアは頷く。


「まぁね。ほんの少しだけど、花には詳しいんだよね。ベアトリスほどじゃ当然ないけど。置いとくほうが悪いよ」


 花には詳しい。正確にはとある特徴を持った花だけ。そして見つけてしまった。じゃあ欲しくなるよね?


 ロクなやつではないな。こいつも。贈られる側も。しかしそんなことはベアトリスには関係ない。どうせ自分が使うものではない。


「……いいだろう。パリに来た記念だ、持っていけ。安くしといてやる」


「やった」


 いい買い物ができたとリディアは喜びを口にする。ここに来た甲斐は死ぬほどあった。


 そのやりとりを無言で見つめていたユリアーネ。よくわからないが、なにやら不穏な空気。そして売り物ではない、と言われても気になる花が何点か。見るだけ。見るだけ。


「それでこちらはどういう……少し不思議な艶というか……半透明で普通とは少し違うような」


 エスプレッソマシンの抽出中にその近くでふと見つけた、明らかに異質な花。いや、花の形をしたなにか。

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