228話
いざ食べていい、となるとユリアーネはなんだかまた緊張してきた。結局エスプレッソを淹れていてもなにも考えられなかった。少し手が震える。が、せっかくなので気合を入れて食す。そして。
「……美味しいです。ほんのりとした甘さと、優しい桜の香り。しかし……不思議ですね。冬に桜が食べられるなんて」
ひと口食べると、するりと心の縛りが解けていく。うっとりとした目つきで桃色の花びらを眺める。味覚でも。嗅覚でも。舌の上を通り抜ける触感でも。感覚がひとつ増すごとに楽しさも増していく。
実は、桜の香りとされているものは、桜の花びらではなく、葉の香り成分である『クマリン』の香り。さらに言えば、塩漬けにしたりしてやっと香る程度。が、そんなことはどうでもよく、舌に訴えかけてくる美味しさは本物。
少々大柄なその花びら。自身も味わいながらベアトリスは解説を交える。
「アーコレードという品種でな。イギリスで作られ、春に咲く一般的な種類なのだが、一部地域では秋から冬にかけて咲く二季咲きの桜だ。パリでも咲いている場所がある」
パクパクとテンポよく口に運ぶ。触感がゼリーとプリンで違う。そういったところも含めて味以外にも加点してやっていい。また作らせよう。
どうしても自然というものは人間には操作できない。それゆえ、外れた時季に花は蕾をつけることもある。同じ品種でも、土地や気候によって色も変わる。それが花の面白いところでもある。
とはいえ、自分達はアレンジメントを欲して来たはず。手にぶら下げて帰るつもりが、胃に収まるという、想定していなかった事態はリディアにとって腑に落ちない。
「でもなぜこれがユリアーネに合っていると?」
いや、いいんだけども。美味しいし。なんなら、土産話として『花屋に行ったら、ゼリーとプリンが出てきました』というほうがありがたい気もする。
もぐもぐとスプーンを止めないベアトリス。半分ほど食べ終わったところで再度会話に戻る。
「さっきも言った通り、桜というものは春をイメージする者も多いだろうが、本当はどの季節でも咲く。山奥であったり、低温で管理すれば夏であろうとな。真夏でも台風などの影響で狂い咲くことも。季節を問わない花だ」
という話にあるように、擬似的に育つ環境を整えることができれば桜に限らず、どんな花も育つと言われている。事実、日本では改良に二〇年以上の歳月をかけた夏咲きの桜に成功している。




