226話
「それで。パリへは遊びに来たのか? 留学はGPAの上位しか許可されないはずだ。優秀なものだ」
追求されすぎるのはベアトリスは好きではない。それがお客であっても。逆にこちらから話を振る。自分のことはこれでおしまい。
これはなにかあるね。というところまではたどり着いたリディアだが、深く探ることはしない。素直に従う。
「そりゃ観光も兼ねて。一度パリには来たんだけどね。いいね、ここは。胡散臭さが街全体に渦巻いているようで」
褒めているような貶しているような。だが、ベルリンとは違う興奮がある。それがどうしようもなく心地良い。あぁ、でもベルリンの危険な香りも好きだ。さてさて。
自分の弟よりもほんの少しだけ上の年齢の少女。どうやったらこんなものが出来上がるんだ。それを訝しみながらもベアトリスは会話を進める。
「そっちもな。あの子の前でも本性を表したらどうだ?」
なにか隠している、気がする。数分前に出会ったばかりの自分はともかく、彼女やそのまわりの人間にも言っていないなにか。余計なお世話、と言われたらそれまでだが。
ふふっ、とリディアの天使のような悪魔の笑顔。
「そりゃお互い様。ベアトリスは私とは少し違って、最終的なところを誰にも言っていない、って感じだね。私は一個丸ごと隠してて。そっちはほんの少しだけ軌道を変えるだけで、行き着く先を誤った方向に操作しているような。いいね、そういうの」
「お待たせしました。どうぞ」
そこに香ばしい香りを携えたユリアーネの登場。一度戻って三杯ぶん用意完了。それではいただきましょう。
背もたれに寄りかかり、つまらなそうに目を細めるベアトリス。対して、頬杖をついて楽しそうに見上げるリディア。空気が重い……理由もわからずユリアーネは「?」と首を傾げて座る。
警戒を解き、コーヒーのカップに顔を近づけるリディア。まずは香りから。うん、いい香り。
「ありがと。エスプレッソは解凍したほうがいいって話をしてたんだけど、それって本当?」
最初の質問の話。せっかくだから聞いてみよう。もし違ったらどうしよう? 恥をかかせるのは申し訳ないなぁ。
「好みがあるので一概には言えませんが〈ヴァルト〉では、エスプレッソ用の場合一時間ほど解凍させてから使用しています。温度が下がってしまいますので」
なので最初、解凍された豆を渡された時にユリアーネは親近感のようなものを感じた。同じようにできる、と。それだけで心が踊るのだから、自分は単純だ、と判断できている。




