206話
「アルバイトが決まりました」
モンフェルナ学園寮。シンプルな三五平米ほどの空間。壁際のテーブルセット、そこに腰掛けながら、静かに決定事項をユリアーネは述べた。
時刻は早朝。ドイツの学校は他国と比べても朝早いところが多い。そのため、習慣のように早起きしてしまう。まだ窓の外は暗いが、着替えだけは済ませておく。せっかくなのでモンフェルナ学園の制服。今まで黒を基調としていたので、紺色というのは少し慣れない。
ダブルベッドの下。そこに寝そべっていたアニーは勢いよく身を起こしながら、声のほうを向く。
「……マジっスか!? いつの間に」
別行動をとっていた時か、と予想し悔しがる。できれば先に見つけたかった。服装の可愛さで選り好みをしていたら、結局未だ見つからず。
隣のキッチンを使い淹れた紅茶。それを飲みながらユリアーネは注釈を入れる。
「正式には、そのお店の場繋ぎに近いですし、カフェがメインではありませんが」
その店の店長の知り合いのバー。そこが人手不足により、働き手を欲していた。そのため、玉突きのような形で自分達がカフェ、店の店員はバーへ。奇貨ではあるが、これを逃す手もないので受けてみることに。
元々、丸い目をさらに丸くしてアニーは問う。
「と言いますと?」
「カフェのあるショコラトリーです。由緒のある老舗なんですよ」
パリでも激戦区の七区で長年支持されているお店。ユリアーネにとっても背筋が伸びる思い。
ショコラトリー〈WXY〉。ショコラには終わりがない、という意味で〈X〉は使わないらしい。実際、日進月歩で世界中で進化し続けている。
満面の笑みで「マジっスか!」と喜びつつも、しかし即座にアニーは懸念点も見つける。
「ボクも一緒にいいんですか?」
盛り上げておいて落とされる、なんてことも。今のところ、二人共と言われていないことに気づく。が。
「もちろん。キッチンとホールがありますが、私達はホールのみ。店長さんとお話ししましたが、制服も貸していただけるそうなので」
そこでもうひと口、紅茶を口に含むユリアーネ。喉元を過ぎていく熱い液体。安心感からか、より濃厚に体に浸透していくよう。
ひとまずそれはお受けするとして。ニンマリとアニーは笑みを浮かべる。
「しかし、ユリアーネさんて時々すごい行動力発揮しますよね。〈ヴァルト〉に来た時も、面接という名の乗っ取りでしたし。まさか今回も」
そしてもう一度ベッドに寝転ぶ。目を瞑って過去を回想。隠し事をしていたのは知っていた。そしてなんとか店の存続もできた。今ではいい思い出。そうして今に至るわけで。そして色々とあって、シシーさんに誘ってもらって——。
唇に触れる。少し、体温が上がる。




