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195話

 気持ちはわかるけども。同じ気持ちだけれども。歯止めをかける者がいないと彼女が本当にそれを実行することは、知り合ってまだそんなに長いわけでもないユリアーネも把握できている。


「我々は一週間ほどしかいないわけですから。難しいと思いますよ。私も他国の良いところを学びたい、というのはありますが……」


 ただでさえ時季的にも、フランスからドイツに来る観光客は多い。ならば今回でなにもかもとはいかないまでも、目に見えない『なにか』を感じ取りたい。だが学生である以上、留学である以上、それが目的であってはいけないこと。わかっている。


 それでも最初から当たって砕ける精神のアニーには、そんなもの微風の向かい風にしか思えない。風。鳥が飛ぶのには必要なもの。カモメ。やっぱりカモメ。


「ダメもとで色々行ってみるっス! できれば制服が可愛いところがいいっスねぇ、ユリアーネさんが普段着ているものとは違うのが見れるのも、今回の旅行の醍醐味っスねぇ」


 カモメ。鳥。今晩は鶏肉が食べたい。チキンフリカッセ。よし、そうしよう。なんの話でしたっけ?


 どんどん話が本筋から外れていく。だがこれもユリアーネには予想通り。注文していたスイーツがテーブルに置かれる。


「だから旅行ではなく留学です。勉強です。それにそういう目で見てくるのであれば、私はやりません。アニーさんだけでお願いします」


 レモンとローズマリーのガナッシュタルトを掴み、当てつけのように頬張る。甘さ控えめで酸味が強い。美味しい。そういえばカフェに来たのにちゃんとスイーツを味わっていなかった。これはアリ。心の中でメモ。


「そんな……」


 ポリポリ、とウサギのようにアニーもタルトを齧る。精神的落ち込みからか、いつもより味が薄く届く。


 その後、チラチラと視線で窺ってくるアニーに耐えかねて、本心を隠すことをユリアーネはやめた。


「……私もアニーさんの制服姿、見てみたいですから。頑張って探してみます。バイト代はお金以外でもらう形にはなるかもしれませんが。一応、何店舗か聞いてみます」


 紅茶にはあまり力を入れていないかもしれませんけど。ということは言わないでおく。せっかく出てきたやる気を削ぐ意味もない。


 それでも表情が曇ったままのアニー。足りないものはわかっている。


「やっぱりディアンドル持ってくれば——」


「却下です。おかしいでしょう」


 準備万端すぎて、完全に学院側から遊びに来ていると認識されても文句は言えない。短期なので学生ビザの申請などはいらないが、あくまでひっそりと。というかユリアーネにとってできれば着ずに生涯を終えたい。着ちゃったけど。そもそもここはドイツではない。

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