193話
キョトンとしてアニーは頭ひとつぶん上の存在を見上げる。
「可愛い……っスか? ボクが……」
それはユリアーネさんのほうが。と言いかけて止まる。そう教えてしまうと、彼女にも同じようなことを試してしまうのではないか。それは……うーん、と悩ましい。そうなると取られてしまうような。取られる、という表現は正しいのかはわからないが。
彼女は。ドイツが産んだ奇跡のような存在で。いや、でも今目の前にいる方も同じような。となると、ユニコーンとペガサス的な二人が? それはそれでお似合い? ボクはそのまわりを飛んでる一羽のカモメかなにか。無相応?
自分の魅力に気づいていないところも、シシーの感性には新鮮に捉えられる。自信のないのは可愛い証拠。
「あぁ、少なくとも、その反応はね。非常に——」
「あ、いや、その先は……言わなくても、大丈夫っス……」
ちょっとずつ落ち着いてきたアニー。言われそうな言葉が香りに乗ってほんのりと伝わってくる。ちょっとだけ危ない香り。感情さえも彼女の嗅覚は『なんとなく』嗅ぎ分ける。ドキドキ。今頃心臓の速さを認識。
自分でもわかるくらいに目が一瞬見開いたシシーは、驚嘆に値している。冷や汗でも流れてきそう。背中に集中がいく。
「まさか先の言葉もなんとなくわかるか。キミのような存在は——」
——危険だね。なんて言うつもりはない。興味、そう、興味がある。ポーカーなどで勝てる気がしない。この子がそういうゲームをやるかは別にして。あぁ、負ける。なんて楽しい遊戯なんだろう。
とまぁ、ここまで色々あったわけだが、結局のところアニーには今の状況がよくわかっていない。今、というか今日のこと大体。なぜ来たのか。
「それで、どういう……」
どうしたいのか。どうなるのか。どうしていいのか。どうすべきなのか。
「キミが可愛いから。ただそれだけだ。それと、よかったら今度の留学にアニエルカさんもどうかな? 講師の方々には話はつけてあるから。考えておいて」
紅茶もありがとう。それだけ伝えると、添えるようにアニーの髪に触れたシシーは、一度も振り返ることなく部屋から出ていった。そのカシュメランの香りの濃度が徐々に消失していく。
「……終わっ……た……?」
ひとり取り残された、いや、自分の部屋なのだから当然だが、その後アニーは数分間フリーズしたままだった。




