190話
クリスマスマーケットが近づいてきていることもあり、ベルリンは世界各国から観光客がどんどん増えてきている。店は忙しい。なのでアニーはこの留学を受けるか悩んだ……りすることもなくその時は即決。したのだが。
「でも……勝手に来てしまったわけですし……」
今になって少し〈ヴァルト〉が気になってきた。主にウルスラ。知らない人ばかりで人間不信になってないか。オリバー。暴走していないか。いや、してる。
その心境の変化を知ってユリアーネは少し安堵。以前、とはいってもまだ付き合いはそれほど長いわけではないが、それでも知り合った頃であれば、もっと傍若無人だった。
「ダーシャさんもカッチャさんもある程度、こうなるって予想していたような気もしますけど。私も、シシーさんから事前に聞いていたので、心の準備はできていました」
怖さもあり。でもやはり嬉しさが勝つ。ワクワク。ソワソワ。パリのカフェのいいところを少しでも持ち帰って役立てることができたら。
ついでに注文していた紅茶のシフォンケーキ。シンプルで真新しいというものではないが、それゆえに店特有の色を出しやすい。一から十を知るつもりでアニーは噛み締める。
「でもいいんスかねぇ……自慢じゃないですけどボク、あんまり勉強は得意じゃないんですけど」
学院のお金でパリに来ているわけで。ほとんど気持ちが学習に向いていないことに罪悪感。楽しさが八割、迷いが二割。
くゆるコーヒーの湯気。そこを見つめているとユリアーネはぼんやりと思考してしまう。過去、未来。だが、現在のこの状況は。胸の高鳴り。
「私としては……お店もありますし複雑ですけど、一緒にいられるのは……それはそれで嬉しいです」
もちろんお店のシフトがきついのもあるので、手放しでは喜びづらいところもあるが、それでも小旅行のような楽しさはある。ベルリンの方向に向かって一応、謝罪はしておく。
その彼女の慇懃な姿勢とは反対に、割り切ったアニーは所感を述べる。来ちゃったものはしょうがない。今、クヨクヨした心は捨てる。
「ま、なにかあってもボクを連れてきてくれたシシーさんのせいにしますから。問題ないっス」
賛美は自分まで。クレームは他人までお願いします。実際のところ、なぜ選ばれたのかはわからないままでいる。
相手は学院の中心人物だというのに、物怖じしないところにユリアーネは危機感を抱く。
「いやいや、そんな……というか、私だったらおそれ多くて言えません」
直接的な危害を加えるということはないだろうが、冷ややかな目を向けられるのは、そういう趣味がある人以外耐えられない。むしろそういう人には報労になるのかもしれないけど。




