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187話

「いやー、静かだねぇ。二人ともいないと」


 間接照明で若干薄暗い店のホール内を見渡しながら、カフェ〈ヴァルト〉のアルバイト店員、ビロル・ラウターバッハは安静と共に少々の物足りなさを感じてもいた。


 店内はヴァルト、つまり〈森〉を意味しているように、落ち着きのある雰囲気を纏っている。BGMなどもなく、壁には絵画など。ゆったりした時間を過ごしてもらいたい、ということで全席にソファー。板張りの床や緑の鉢植えなどで、森林内を演出している。店員も、黒と白を基調としたシンプルな制服で静かに溶け込む。


 ドイツはベルリン。テンペルホーフ=シェーネベルク区。一二あるベルリンの行政区の中で、七番目の区コードを持つ南部の地区にあたる。


 空港の滑走路を利用した三百ヘクタールにも及ぶ大きな公園も有し、穏やかな時の流れを実感できる憩いの場でもある。そして歴史的な建造物や街並みに紛れるように、一軒のカフェが存在しているのである。


 その背後から近寄ってきた店長代理、ダーシャ・ガルトナーは同意を示しつつも、若干の齟齬を正す。


「二人、というかどう考えても片方だけどね。でもたしかにあれがデフォルトだったから、なんだか逆に物足りなさもあるね」


 時間は夕刻。カフェというものが文化として根付いたドイツという国。混み合ってはいるが、いつもよりもスムーズに提供できている気がする。


 片方。アニエルカ・スピラ。通称アニー。紅茶を愛し、その熱量は仕事中だろうとなんだろうと、飲みたくなったら飲んでしまうので、常に注意が必要となるこの店の店長。


 もう片方、ユリアーネ・クロイツァーは非常に丁寧な接客をするため、問題視はしていない。まだ少女ではあるがこの店のオーナー。


 もちろん、毎日アニーがいるわけでもないので、今日のような日はそんなに珍しくないのだが。それでも数日間いない展望となると、この静けさが逆に怖さにも繋がってくるわけで。


「俺からしたら、なんの心配もなく料理を提供できるなんて夢のようです。だって作っても、あいつが『紅茶に合うかも』って思ったら食われるんですよ? 笑っちゃうでしょ?」


 HAHAHA! と、他人事のようにビロルは笑う。実際、他人事として捉えている。ドイツではとにかく、料理の提供は時間がかかるところが多いので、そこまで重要には考えていない節もある。


 今までに何度アニーが勝手に食べたのか覚えていない。むしろ、たまに自分用にと多めに注文を入れる。ヤツが紅茶を淹れ出したら要注意。


 現在、店を任されているダーシャにとっての悩みの種は、解放されて浮き足立つ他の店員のこと。


「笑うとこじゃないでしょ。僕、何回謝ったか数えてる?」


 時間がかかる、とはいってもかかり過ぎれば黙っていないお客もいるわけで。その度に出ていくのはこの人物なわけで。

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