176話
言いたいことは全て把握したシシー。愛おしいその花の輪郭を、色香を纏った目つきでなぞる。
「ふふ。悪い女だね、俺は。みんなをたぶらかしているってことだね」
もう一度レモンティーを味わう。花言葉を聞いてからだと、気の持ちようか、少し複雑な味に変わったような。恋人達の憎しみ? そう判断し、ひとり苦笑する。
だが、余裕のない面持ちで今の気持ちを吐露する。
「……なんでユリアーネさんなんスか……?」
過呼吸になりながらも、今後どうなったとしても、今この場で言おうと決めていた。
その発言の意味を、シシーは計りかねる。
「どういうことだい?」
なんとなく、言いたいことはわかってはいるが、あえて問う形。
「……ユリアーネさんは真っ白で、純真無垢な人なんです。シシーさんのように、危ない匂いのする人は……近づけたくないんス」
頭の中にはユリアーネ。働く姿、この部屋で紅茶を飲む姿、制服で歩く姿。全てがアニーにとって宝物となっている。
「それは彼女が望んでいることなのかな? キミが勝手に過保護にしているだけではなくて?」
シシーの反論はもっとも。本人に言われたわけではないし、マイナスに影響しているのかも不明。無理のある理屈を通そうとしている。
それも分かった上でのアニーのお願い。近づかないでほしい、と。
「たしかに……余計なお世話かもしれないです。でも、邪魔だと思われても、嫌われたとしても、守りたいんです……」
「なるほど。彼女は騙されやすそうだからね。で、それが俺だと」
イスに深く腰掛けてシシーは考え込む。なるほどね、それは問題だ、とも。しかし、「ふふ」っと声に出して笑うと、それらを払拭する。
「ま、結論から言うと、今度フランスの留学に彼女と選ばれたからね。行くのは二人だけだし、親睦を深めようと思っただけだよ。どう? 嘘はついているかい?」
「……え?」
明るく真実を打ち明けると、アニーの目は点になる。可愛いね。本気になってしまいそうだ。
初めて知る真実。ユリアーネはそんなこと、教えてくれなかった、動揺するアニー。
「嘘……ではない……っス……シシーさんとだったんですか……? そんなことはひと言も……」
「キミに心配をかけないように、だったんじゃないかな? 俺のことを疑っていたようだし。そんなことしてもどこかからバレそうな気もするけどね」
だからキミの心配は杞憂だよ、と妖艶なシシー。
ポカン、と放心状態になるアニーだが、とすると、色々と今までの疑惑は一体?
「……ボクはなんのために、疑ってたんですか?」
とても失礼なことばかりしてしまった気がする。一連の流れに、恥ずかしさで顔から火が出そうになる。




