165話
首肯しつつ、シシーは話を若干戻す。
「ミツバチがいないとね、コーヒーは飲めなくなってしまうというのは知っているかい?」
今回のコーヒー。カフェ・コンレーチェ・イ・ミエル。全ては蜂のおかげでできている。いない世界線であれば、作ることなどできない一品。
その問いの意味を、当然のようにユリアーネは理解している。
「はい、受粉ですね。野菜も果実も、ミツバチの受粉に依存している傾向にあること。アーモンドやショコラーデなども含めて、多くの作物がミツバチなしでは満足に出荷もできない、ということですね」
あのアインシュタインですら、ミツバチがいなければ人類は四年生きられるかどうか、という言葉を残している。決して表には出てこないが、裏で地球の作物を支えているのは彼らなのだ。
欲しい答えが返ってきたので、満足げにシシーはさらに知識を披露する。
「その通り。そんな可愛らしいミツバチだが、寒い時期は異常に凶暴性が増す。怖いね、だが二面性があってやはり素敵だ」
食べてしまいたいくらいに。そんな物騒な言葉は隠しておく。
また理解に時間のかかりそうなことを。ユリアーネはシンプルに尋ねる。
「素敵、ですか?」
凶暴でないほうがいいのに。それすらも愛らしいと。この方は言っている。どういうこと?
「素敵だね。それに、一度針を刺したら死んでしまう、そのか弱さも。その毒に隠された、人間の皮膚の再生能力を引き上げる力も含めてね。まるでユリアーネさんのようだ」
含みのある言い方をするシシー。なにもかも達観しているかのように決定づける。
一部否定するユリアーネだが、素直に受け止めていいのかわからない。上手く……例えているんだろうか?
「私……私は、みなさんのお役に立てるような人間ではありません。弱い、というところはあっているかもしれませんが」
「毒を持っているところは否定しないんだね」
揚げ足を取るように話を展開するシシー。言論では一枚も二枚も上手。終始笑顔だが、邪悪に見えてくる。小悪魔のよう。
「……あなたのように立派にはなれませんから」
少し棘のあるユリアーネの言葉。緊張はだいぶ薄まってきたが、逆に警戒心が強まってきた。嫌な感じがする、というわけではないが、なにか、そう、怖い。
自分の実力以上に評価されていることに驚きつつ、シシーはその余裕を崩さない。
「俺ねぇ……そんなに大した人間じゃない。キミと同じ、毒蜂だよ」




