162話
しかし、シシーは持論を展開。
「大事だね。最終的に生き残るのは臆病なヤツだ。勇猛果敢なことも大事だけどね。つまり、二面性のある人は素敵ってことさ」
ふふ、っと慈愛に溢れる優しさで包み込む。迷える後輩を導くのは、上の者の役割とでも言うかのように。本当は、可愛いから少しいじめたくなっているだけ。甘く、とろけるように。
「二面性……」
全く話の本筋が頭に入ってこないユリアーネ。気になるワードを繰り返すだけ。
戸惑うその姿も愛らしい。自分では到底敵わない可愛らしさだ、とシシーは白旗を上げる。
「難しい話になってしまったね。一度ユリアーネさんとは話してみたいと思っていたんだ。図書館なら落ち着いて話せるだろう? 無理を言ってすまないね」
ドイツでは、図書館では会話も禁止していないし、飲み物も可能。街のカフェと比べたら静かではあるし、売っているコーヒーの種類なども少ないが、なにより安い。さらに、州によっては政府から資金を受けて、テレビゲームができるところもある。
まさか、シシー・リーフェンシュタールは自分をはっきりと認識してくれていた、ということにユリアーネは感動すら覚える。全ての生徒を記憶しているという噂もあるが、その中でも自分に。が、それが逆に不思議な話。
「それは……大丈夫です。ですが私と……ですか?」
特に目立つほうではない。学業は優秀ではあると思うが、お近づきになろうとグイグイといっていたわけでもない。なにゆえ?
また悪戯な笑みでシシーは惑わす。
「うん。人間というものに興味があるからね。ところで、聞いた話によると、キミのところのお店では、その人に合った紅茶のセットがメニューにあるんだって?」
面白いね、と興味を示す。どんなものなのか。
自身の店について質問されるユリアーネ。本当であれば、ぜひ来てみて、味わってもらいたいところ。だが、表情は浮かない。
(……それは、アニーさんの力です。私にはできません……)
また彼女。私ではない。必要とされているのは。とはいえ、そんなマイナスなことを伝えても仕方ない。内心を隠して、
「はい。アニーさんがいる時だけ、ですけども。ぜひ一度」
とりあえず勧める。実際、来店してもらえるのであれば、きっかけなどなんでもいい。この方と接点が増えるなら、なんでもいいじゃないか。渇いた唇を舐める。
精一杯、朗らかな雰囲気を装ったつもりだったユリアーネだが、体の隅々まで射殺さんとするシシーの視線に、ドギマギとする。
「……? なにか、どうかされましたか?」
なにもかも見透かされているような。でも、見ていただけていることが嬉しいような。手には汗、頬は赤らむ。




