160話
上方には高さ、幅ともに四〇メートル弱ほどのガラスのドーム。八角形で四階建ての建物の壁面には、二〇万を超える大量の書物。一階の中庭のような位置にあるのは、書物の閲覧ルーム。中心に向かって、放射状に琥珀色の統一された机とイスが並ぶ。
ケーニギンクローネ女学院の図書館。多くの生徒が使用している、一種の芸術品のようなその建物の一画でも、特に目を惹く二人の少女。
「アメリカの作家、ウィリアム・アーサー・ウォードは、人間は三種類に分けることができると言っている。『悲観的』『楽観的』『現実的』にね。知っているかい?」
その片方、この女学院において一番と言っても過言ではない優等生で有名人、シシー・リーフェンシュタールは、対面に座るもうひとりの少女に問いを投げかけた。
その少女、ユリアーネ・クロイツァーは、なんで今自分がここにいるのかもよくわからないまま、答えを口にする。
「……いえ、知りません」
いきなりアメリカの作家のことを聞かれたが、名前も聞いたことがない。緊張で普段のように思考できないのも手伝って、簡潔に、ぶっきらぼうに返答してしまった。
だが、シシーは微笑みながら、先の話を膨らませる。
「悲観的な人間は風が出てきたと嘆き、楽観的な人間は止むのを待つ。現実的な人間は帆を調整するわけだが、キミは俺の推測からすると、悲観的な人間のようだね」
「私が……ですか?」
否定したいが、言われてみればその三種類の中では一番近いかもしれない、とユリアーネは納得する。アニーは現実的に行動する。自分は机上の空論をつらつらと書き連ねる、そんなタイプ。
数日後に迫ったフランスへの留学。一週間だけとはいえ、親交を深めようというシシーの発案の元、ユリアーネは図書館に呼び出された。なにをするでもないが、軽く世間話でも、と。だが、ユリアーネからしたら、気の休まる話ではない。
そんなことはお構いなしに、シシーは笑みを崩さず話を続ける。まわりでは、少し遠巻きに、彼女達を話題にして会話している集団もいるが気にしない。
「俺は楽観的な人間だね。風がやむまで待つ。悪くはないだろう? 待っていたら、もしかしたら豪華客船がたまたま通りかかって、それに乗せてもらえれば、結果的に現実的な人間より早く目的地に着くことがあるかもしれない」
確率的にいえば低いだろうが、リスクのある選択肢を好む。
もっと堅実なほうを選ぶと思っていたユリアーネは、少し意外、とでも言うように言葉を選ぶ。
「そう、なんでしょうか。それでもやはり、悲観的な私からすると、楽観的も現実的も眩しい存在です」
精神的に若干落ち気味。アニーも。シシーも。自分では手の届かない人達のような気がして。こんなことではダメだ、と意識を変えたいのだが。




