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157話

 頭の中で情報をまとめ上げるアニー。


「……それにボクが関わっているかもしれない、と」


 当然、そんな記憶を消すような紅茶を提供したこともないし、他にも心当たりはない。無関係、だが、嘘をついているというわけではなさそう。なんだか釈然としない。


「気を悪くしたらごめん、でも、なんかモヤモヤしてて。ひと言聞けばいいだけだったんだけど、店にまで来ちゃって」


 同じ学園であるならば、学校で聞いて終わりだったのだが、なぜだかアルバイトの応募までしてしまったウルスラ。自分のことながら、つきまとっているようで少し怖い。新しいことに挑戦してみよう、という気持ちもあって、ここに来たわけだが。やはり空振りだったようだ。


 もう一度考えてみたが、やはりアニーはなにも引っかからない。そんな知識もないし。


「うーん……今のところ思い当たるフシはないっスねぇ。まぁ、問題なく生きていけてるんならいいんじゃないすか? それに、そのおかげでアルバイトに来てくれたので、ボクとしては記憶喪失に感謝したいっス。こうして仲良くなれましたし」


 逆に、ラッキーだと伝える。忙しくなっていく店。そこに同じ年の、可愛い店員が迷い込んでくれた。おかげでより賑わう。ありがたいこと。


 それにはユリアーネも言葉を重ねる。


「そうですね。第三者である私がなにか言えることもありませんが、人手が足りていなかったので、助かります。『愛すること、忘れること、許すことは人生の三つの試練』ということわざがあるくらいです。そのうちのひとつができているのですから、喜びましょう」


 と、無理矢理にだが前向きに持っていく。未来は前にしかない。あとのふたつ。それもおいおい。


 おっ、とアニーが興奮する。


「スウェーデンのことわざっスね。ユリアーネさん、いつの間に」


 自分の仕掛け通りに、北欧の色に染まりつつあるのが嬉しい。今度、寝てる時に童謡でもかけておこうか。


「私も勉強しています。置いていかれないように」


 木々に取り付けられた電球に照らされ、ユリアーネの晴れやかな横顔が顕になる。アニーとならどこまでもいける、そんな気がする。そしてウルスラも。新しい仲間として。


 微笑ましい仲の良さを見せつけられたウルスラだが、なんだか心がほっこりとしてきた。


「……二人はいいコンビだね。羨ましい。私も誰かそういう人がいたら——」


 と、言いかけてそこで止まる。そういう人がいたら。そういう人。


 誰か


 いた気がする。


 想いは叶わなかったけど、この人のためなら全てを捧げることができる、そんな人が。


「? ウルスラさん?」


 足を止め、惚けるウルスラの心配をするユリアーネ。一部記憶がない、その影響なのだろうか、と深く読む。だが自分にできることを考えてもわからない。つい、いたたまれなくなり、視線を外してしまう。


 それに気づいたウルスラ。気を使わせてしまって申し訳なく思う。


「……ううん、なんでもない。今日はありがとう。これからよろしくね」


 そうして、精一杯に笑顔を作る。書店も楽しかったけど、こっちでもやれそうな気がする。ゆっくりと、思い出していけばいい。思い出せないなら……それでかまわない。


 モヤモヤとしたウルスラの感情を読み取ったアニーだが、自身も明るく振る舞わねば。


「こちらこそっスよー」


 店長として、スタッフのことを守らなければ。みんな、楽しく働けるように。


「はい、よろしくお願いします」


 不安はある。だが、今考えてもしかたない。これまでのこと。これからのこと。ユリアーネはゆっくりと、力強く石畳を踏み締めた。

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