152話
目の前に、今話題のショコラティエがいる。一瞬で緊張がマックスになり、ウルスラは臓器がキュッと、レモンのように絞られたかと震える。
「……えぇ……」
しかし、当然アニーは「ほえー」と頷いて、喜びを見せる。
「ご本人スか? 道理で詳しいと思いました」
よろしくっス、ととりあえずクルトの両手を握ってブンブンと振る。よくわかっていないが、なにやらやっぱりすごい人のようで、改良を引き受けてくれたことと捉えた。
ソファーに深く体重を預けつつ、マクシミリアンはリラックスしだす。
「結構あっさりしてるねぇ。一応結構すごいヤツなんだけど」
ニヤニヤと悪人の面構えで、クルトをサングラス越しに見流す。でかくなったもんだ、と小さい頃から見てきた青年の成長を、再度噛み締めた。
口元に人差し指を当て、アニーは深く考え込む。
「いや、驚いてますけど、あんまりピンとこないっス。誰がお客様でもやることは一緒なので」
結局は笑顔。難しくは考えることは、やはりできない。目の前に集中するだけ。
クルトは目を閉じ、耳を澄ませる。森の風を感じる。いないはずのウタツグミの声が聞こえる。魂の花が、咲く。
「……こちらのお店のオーナーさんはいらっしゃいますか? お話が」
時計の針が、動く。
「そこにいるよ。ユリアーネちゃん、ちょっと」
見えないが、音で位置がわかっていたマクシミリアンが、オーナーであるユリアーネを呼んだ。
「? はい」
振り向いてその声に反応したユリアーネ。ちょうど接客を終えたタイミングだったので、ゆったりとした足取りで座席に近づく。
「……どうされましたか?」
呼ばれた理由もよくわからないが、緊張はする。なんといっても憧れのショコラティエ。アニーさんがもしや失礼なことを……心臓と頭が痛い。
しかし、当のクルトは、目の前に現れた少女を目にすると、頭を抱えて状況を整理しようとする。
「……え、いや、ちょっと待って……オーナー、って言ったよね、自分……」
自身にブツブツと言い聞かせる。なにか言葉を間違ったかもしれない。思い返すが、やはりオーナーを呼んでくれと言ったはず。が、目の前には若い少女。え?
「……?」
その姿にユリアーネも眉を寄せる。一体どうしたことだろうか。
クルトがなにを脳内で反芻しているのかわかるマクシミリアンは、疑問に答えてみせる。
「ほら、オーナーさんだよ。アニーちゃんと同じ年齢の。ユリアーネちゃん」
たしかに、店長以上の衝撃かもしれない。普通はまさか一六歳程度の少女がオーナーだとは思わないだろう。




