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142話

 今にも昇天しそうな幸福感を感じているアニーを見ていると、ウルスラはやっぱり少し距離を置こうか、と後ろに体重がかかる。


「そ、そうだね。でも、コーヒーもいいものだよ」


 どちらかといえばコーヒー派。むしろ、紅茶はあまり飲んだことがないかもしれない。家にあるのはドリップコーヒー、インスタントコーヒー、エスプレッソマシン。家の壁にはコーヒーの香りが染み付いていることだろう。


 紅茶仲間か……! と少しだけ期待していたアニーは、コーヒーという単語が出てきて少し不機嫌になる。


「……悪くはないっスけど、紅茶がある限り二番手です」


 わかりやすく頬を膨らませる。感情は隠さない。そのままドアを開けてホールへ。


 キッチンから再度ホールへ出ると、一気に明度が落ちたこともあってか、別世界のようにウルスラは感じた。森の中、をイメージしているという。壁にかけられた絵や置物、鉢。小さいテーマパークのようなワクワク感と、キャンプのような孤独感。どちらも味わえる。


 その中でスタスタと軽快なステップで、壁沿いの席にアニーは到着。


「はい、お待たせしました。まずは紅茶をお楽しみください」


 カップとソーサー、そしてティースプーンを提供。中身はストレートティー。


 ナチュラルで芳醇な茶葉の香りが、そのテーブルを包み込む。たっぷりと吸い込んで、マクシミリアンは言葉を発する。


「ありがとう。そっちの子は新人かい?」


 チラッと覗く先には、背筋のピンと伸びた子。とは言っても見えてはいないが、本当に盲目なのかと問いたくなるほどに、一挙手一投足が鋭い。


 自身に話が振られ、ビクっとしながらウルスラは挨拶を放つ。


「は、はい! ウルスラ・アウアースバルトと申します。こちらをどうぞ……で、いいんだよね?」


 アニーから頼まれた、カラフルな粒の入った小さなボウル。カステヘルミ。『露の雫』を意味するフィンランドのブランド。ボウルの外側には、丸く粒のようになったガラスが規則正しく配置されている。滑り止めの役割も果たし、華やかさも併せ持つそれを、それぞれに置く。


「はいっス。そちらをティースプーンで掬い、口に含んだり、もしくは紅茶の中で潰しながら飲んでください。量はお好みでどうぞ」


 と、使い方、飲み方をアニーは示す。比較的自由度が高い。加減次第で無限に味が変わる。


 だが、マクシミリアンは苦言を呈す。音の反響具合でだいたいのものの位置や大きさはわかる。


「と言われてもねぇ……そもそもこれは? ……んん?」


 ひと掬いし、食す。知っているような、知らないような。食欲を刺激されるが、なんとなく自分の知っている形とは違うような気がする。そんな味と香り。

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