136話
顎に手を当てて全身を舐め回すように、カッチャは制服姿になったウルスラを凝視する。
「うーん……」
近づいたり離れたり。右から左から。上から下から。
恥ずかしさからウルスラは赤面しつつ、されるがままに正立する。変なところがあるのだろうか。
「……なにか?」
あまりジロジロと見られるのは、同じ女性だとしても反応に困る。まだ完全には心を許せていない。歩み寄ってくれているのはわかるし嬉しい。けど、そう性格は簡単には変えられない。申し訳なく思う。
よし、となにか納得がいったようで、カッチャは怯えるウルスラの肩を叩く。
「アニーが恨みを持ちそう」
具体的にはなにがとは言わないが。きっと羨ましがられるだろう。あの子にはないもの。
なんのことだかさっぱり、とウルスラは訝しむ。
「? ……それで……なのですが」
言おうか悩んだが、言ってしまおうと決意する。自身の秘密。隠すほどではない。むしろ、伝えてしまってスッキリとしたい。
「うん、あるの?」
少し距離が近づけたかな、とカッチャは聞く体勢を整える。身を乗り出して一歩近づいた。正面に見据えて耳に集中する。
大きく息を吸い込んだウルスラ。心臓がいつもより速い。落ち着け。私がここに来た目的。
「……はい、私がここを選んだ理由は、本当は——」
†
「……店長さん、ちょっと」
キッチンで調理をするダーシャの元に、血相を変えたユリアーネが駆け寄る。
真剣な面持ちで「ちょっと待ってね」とチーズケーキをダーシャは切り分ける。うん、完璧。味も角度も今まででも相当いいほうの出来だ。満足したので振り返った。
「ん? どうしたの?」
「お客様の中に、とある方が」
少し興奮しているのか、ユリアーネの息が荒い。運動をして心拍数が上がった、というよりは、信じられない光景に驚愕しているというほうが正しいか。
「?」
不思議に思ったダーシャは客席を覗きに。軽く話しかけられた知人に挨拶をしつつ、納得して素早く戻ってくる。目配せしながらユリアーネに説明。
「あぁ、マクシミリアンさんのこと? よく知ってるね。ユリアーネちゃんくらいの年代で知ってる人いたとは。あの人はね、それは昔は強くて——」
「……? いえ、そのマクシミリアンさんという方は存じ上げないのですが、その対面に座っている男性です。クルト・シェーネマンさんです」
なんとなく話が噛み合っていないが、うんうん、と何度も頷きながらユリアーネは血眼になる。まさか彼が。マクシミリアン、と言われてもピンとこないが、女性のほうも有名な人なのだろうか。
カフェを経営しているわけだが、そういった飲食に関する情報や流行を追うことも重要。ユリアーネは少なくとも近場の有名店などは視察に行っている。首都ベルリンでは、ものすごい早さで更新されていく。ついて行けなくなることは、その店の危機に直結する。




