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124話

 ベルリンはテンペルホーフ=シェーネベルク区。カフェ『ヴァルト』の控え室。響き渡るのは絶叫。


「フ、フ、フランスっスかッ!? ダメっス!」


 部屋中央のテーブルを叩きつつ、抗議するのは店長のアニエルカ・スピラ。通称アニー。若干一六歳ではあるが、事情により店長を務めている。今日も楽しみであるバイトの時間なのだが、始まる前に衝撃の事実が明らかになった。


 叩いた衝撃音のあと、一瞬シン、となるが、アニーが淹れてくれたチャイをひと口含み、ユリアーネはその言葉を受け止めた。


 「はい。フランスの首都、パリに一週間ほど行ってきます。なのでお店のほうはお願いいたします」


 ゆったりと味わう。《今日のユリアーネさん》と名付けられ、淹れられたチャイには、スパイスが効いている。そのスパイスは柚子。甘さの中に独特の爽やかな風味。不思議と心が落ち着く。


 一六歳にしてこの店のオーナー。もちろんちゃんと納税もしている。色々あって土地ごと譲り受けたこの場所。経営に興味があり、コーヒー店にしようかと画策しながら、日々勉強中。そのこともあり、カフェの本場であるパリへ。引き受けようと思い立った。


 寝耳に水、とアニーがさらに接近する。


「一週間も!?」


 できれば一日だって離れたくないのだが、それを七日も!? と、脳内ではパニックになる。毎朝優雅に起こし、寝ぼけた眼を擦りながら起きてくるユリアーネに紅茶を淹れる。一緒に住んでいる前提の行為ではあるが、それをやってボクの朝は始まるのに?


 事実、お互いの家に時々泊まり合う仲ではあるが、それが完全になくなる。一週間空けたことはない。時間が経つにつれ、特に五日目以降は自我を保っていられるかアニーは自信がない。


「一週間だけ、です」


 再来週には出発だという。期間も短いため、半分は旅行のようなものだというが、ユリアーネは準備なども特にしていない。学院の旅費で巡ってみたい、という気持ちのほうがどちらかというと強い。


「そりゃまた急に。大丈夫だけど、なにかあったの?」


 店の年長者、ダーシャも口を挟んだ。ユリアーネが来たのは最近だし、元々はいない状態でお店はなんとかまわせてはいたから、とりあえず問題はないとは思う。勉強のために異国の地のカフェを探るのも大事だろう。しかし唐突で驚いた。


 柚子の香りを楽しみながら、ユリアーネは場を落ち着ける。


「ちょっとした留学のようなものです。すぐに帰ってきますよ」


 半年後にある本格的な留学を決定するかどうか、その試しの留学なので、期間は一週間。成績が優秀な者のみのため、今回は学院からは二人。そのうちのひとりが彼女となった。


 だが、その報告に半分魂が抜けている者もいる。

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