122話
そして三個目の試食。レモンティーの風味。マクシミリアンはセットを買って帰ろうと決めた。
「ティーショコラ、じゃなくてショコラティー。紅茶にショコラーデの香りをプラスする」
自分で言っておいて、飲みたくなった。帰りにどこかで買って帰ろう。
うーん……とクルトも悩む。
「それはもう紅茶の専門家になるしかありません。ショコラーデも深いですが、紅茶も同様に深い。両方を極めるとなると、私には時間が足りません。他にもやらなければいけないことも多いですし。ウチはカフェを併設していませんし」
そうなるとショコラーデより紅茶の割合が強い。ショコラを使っていないお菓子ももちろん売っているが、製菓学校で習ったからこそ作れるのであって、茶葉に関しては習っていない。ロンドンの茶葉の学校に通う時間はない。
そして、紅茶の学校に通ったからといって、それはただ単に知識を詰め込んだだけ。実践とは違う、というのはクルトはわかっている。ショコラーデも一緒だから。製菓学校で学んだ知識より、店で失敗して学んだことのほうが遥かに多い。
だが、一度こうと決めたらブレないのがマクシミリアン。言うだけはタダだし。言って本当にやってくれたら儲けものだし。
「あたしはショコラティーを置いてもいいと思うけどね」
わざわざ他のところに買いに行かなくて済むし。それに、やはり一流のショコラティエの監修するショコラティーは気になる。
できるのであればやりたい、というのはクルトも一緒。
「面白いとは思いますが」
だがそこまでするメリット。費用対効果を考えると、二の足を踏む。新しいものに挑戦したい気持ちはもちろんあるが、飲む人は増えているとはいえ、まだまだ紅茶はコーヒーに負ける。それならカフェモカを取り入れた方が、需要は多そうだ。
だが、気分は紅茶とショコラになってしまったマクシミリアン。クルトの都合はお構いなしで、物事を進める。こうなると止まらない。
「ちょっと待ってな」
そして携帯を取り出し、どこかへかけだす。盲目専用の携帯電話。いてもたっていられなくなると、相手の都合など文字通り見えなくなる。というより、自分の思う通りになるのなら、相手など知ったことではない。
なんとなく手持ち無沙汰になったクルトは、他のお客さんに声をかけたりして待つ。あぁなったマクシミリアンはなにを言っても無駄だということはわかっている。
「全く……自由な人だ」
愚痴をこぼしつつも、この店に来てくれたお客さんとの会話を楽しむ。写真撮影や著書のサインにも快く応じ、試食もアルバイトと共に配る。新進気鋭といえば聞こえはいいが、まだまだ日の浅いショコラトリー。手を抜くことはできない。




