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121話

 長期間の準備と審査。そして特に料理や製菓などの飲食に関するものは、かなり審査が厳しく、合格率は一パーセント程度のこともザラにある。その中で、若くして取得し、自身の名を冠する店を持つのがドイツ人、クルト・シェーネマン。


「出したいですけどね。焦ってはやりません。しっかりと弟子を育てることも大事ですから。ですが、あなたのお墨付きであれば、多少なりとも有利に働くかもしれませんね」


 とある分野では超がつく有名人である老婆、マクシミリアン・クラインヘルン。彼女は目が見えない。そのぶん、心の揺らぎやその他の感覚に敏感。つまり『勘がいい』。その彼女が歓喜の笑み。


「それは嬉しいね。でも、まだ完璧じゃない、そんな気がするね。迷ってる」


 味も香りも舌触りも最高。だが、彼の言葉の最後になんとなく『濁り』のような抑揚。彼女を騙すことはできない。


 深く息を吸い込んだクルトは、降参とでも言うように小さく笑みを浮かべる。


「……あなたはごまかせませんね。ティーショコラーデの茶葉、まだ研究の余地がある気がして。私は紅茶の専門家ではないので、どうしても限界があります」


 紅茶商で一〇年近く働いているティーテイスターにも協力を仰ぎ、自信を持って送り出せるひと品。改善の余地があるのはもちろん。完璧ではない、というのもひとつの魅力である。各々が最後のひと押しを、好きなようにできるから。それでも、なにかできることはまだある気がする。


 試食、ということで遠慮せずマクシミリアンはもうひとつ。

 

「充分に美味しいけどね」


 紅茶の華やかな香りと、カカオの苦味。足し算ではなく掛け算。味わいながら、ひとつ欲しいものが頭に浮かぶ。


 褒めてもらったことは嬉しい。だが、慢心はクルトにない。


「いえ、常に上を目指すことは大事です。『究極』や『完璧』と言う言葉を嫌わねば、そこで終わりです」


 トリコロール。M.O.Fのみが着ることを許されたカラー。ツール・ド・フランスのマイヨジョーヌ。サッカーのブラジル代表一〇番。皆の期待と羨望を背負い、傲慢など許されぬプレッシャー。それを跳ね除ける力がなければ、今すぐ脱ぐべき誇り、と考えている。


 もっと肩の力抜けばいいのに、と自由奔放に生きてきたマクシミリアンには窮屈だ。


「逆を考えたことはないのかい?」


「? と言いますと?」


 また理解の外から狙われている、とクルトは身が引き締まる。『盲目の狙撃手』、その名前のせいで、標的にされた気分だ。お得意様ではあるが、厳しいところは厳しい。忖度のない意見はありがたい。

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