表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/320

119話

 悪い話ではない。交換留学ができるのはほんの一部の生徒のみ。それに選ばれた。本来なら行く行かないは別にして、喜んでいいことだ。しかし、ユリアーネは店のこともあり、いきなり言われても当然即答はできない。


「……いえ、私は——」


「いつからですか? 結構毎年バラつきがありますよね?」


 気になる部分を、シシーが先に問いかける。なにか予定でもあるかのように。


「半年後。そして留学期間は半年。今回呼んだのは、それをどうするか決めるためのプレ留学ってところ。それで、本格的な留学に行くか行かないか、決めてもらおうかと。今年からの試みね」


 淡々と内容をエルガは伝える。様々な情報に詳しいと噂のシシーも知らないこと。

 

「なるほどね。いつからで、その期間はどのくらいですか?」


 聞きたいことを率先してシシーが聞いてくれるので、ユリアーネは終始無言で立ちつくすのみ。そもそも、今は留学などは視野に入っていないため、どうでもいい、というほうが正しいか。


「向こうの都合で今月半ばから。期間は一週間。急だから、予定があればそちらを優先してもらって構わないわ」


 一気に喋ったからか、再度口にコーヒーを含んだエルガは、「ふぅ」と息を吐いてイスにもたれかかる。実験的な要素もあるため、彼女にもどれだけの効果があるかはわからない。不安もある。


 少し悩む仕草を入れたシシーは、緊張の面持ちを見せるユリアーネの肩をポンッ、と叩いた。

 

「面白そうですね。予定がないこともないですが、自分は大丈夫です。ユリアーネさんはどうする?」


 唐突に話を振られ、軽くパニックになるユリアーネだが、それでも腹は決まっている。無理だ。色々と。


「……いえ、私は——」


 お店が。自身がオーナーを務めるカフェがある。そちらも手が回っていないのに、店を離れるわけには。


 言葉を選んで言えずにいるユリアーネに、シシーはフォローを入れた。


「無理にじゃないけどね。俺は面白そうだから行くよ」


 真っ直ぐ憧れのシシーに見つめられ、ドギマギしたユリアーネは、つい、


「……行きます……」


 と、意志に反したことを口にしてしまう。内心「あ——」と背筋が冷たくなったが、一度言ってしまった以上、否定できずにいる。

 

「いいね。そういうことで先生、二名ともお願いいたします」


 笑顔を見せるシシーに、ユリアーネも苦笑いで応えるのみ。今ならまだ間に合う。


 上級生に流されている雰囲気を感じ取ったエルガは、再度ユリアーネに確認を取る。


「仕切ってくれて助かるわ。ユリアーネさんも、無理にじゃないからね、本当に」


 最後の手を差し伸べてくれている。一週間だけ。されど一週間も。お店の改善を。色々と試したいこと。作りたいメニューがある。それなのに。ユリアーネは。


「……行きます」


 なぜ、その手を離したのか。きっと、シシー・リーフェンシュタールという人物との縁を、切りたくないからだと自分に言い聞かせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ