116話
そしてそのままユリアーネの家へ。
夕食も外で済ませ、シャワーを浴び、まったりと過ごす夜の時間。ユリアーネがドライヤーでアニーの髪を乾かしていると、やっぱり気になっていたことがある。
「そろそろ教えてくださいよ。パウラさんてどういう関係の方なんですか? ただのスタッフさんじゃないんですか?」
目を瞑って気持ちよく乾かされながら、アニーは「そろそろいいじゃないっスか」と、要求する。
さすがに可哀想か、とユリアーネも仕方なく決断した。いや、決断というほどでもないが。
「……テオさんの婚約者の方です。お腹に新しい命も宿ってます」
「……え!?」
全く予想外だったらしく、アニーは振り向いてユリアーネを見た。が、すぐに元に戻って乾かしてもらう。
冷風に切り替えながら、ユリアーネは丁寧に答え合わせする。
「だからカフェインもあまり摂れませんし、体調不良もそれが原因でしょう。新しいディアンドルはおそらく、ウェディングディアンドル」
ディアンドルの中には、結婚式用のものがある。新郎とお揃いのジャケットを着たものなど、種類も豊富で、個性の光る衣装だ。
「……たしかに、テオさんには恋人がいるって感じましたけど、パウラさんだったんですか……」
最初に感じたデキる男のオーラは、そこからきていたのか……と、アニーは納得した。それと同時に変な勘違いをしてしまったことに、申し訳なく思う。思うだけ。
ムスっとした表情で、ユリアーネは優しく叱る。
「鈍感すぎます。むしろそれ以外ないじゃないですか。あの場で気づいていなかったの、アニーさんくらいなものですよ。もしくは観光客の方々」
しかし、「えへへ」と、恥ずかしがるアニーを見てると、ユリアーネも怒る気がなくなる。むしろ癒される。
そこへ、アニーは不自然に感じたことを思い出す。
「でも、なんか店長とパウラさん、いい雰囲気じゃなかったっスか? またあのヒゲが、綺麗な女の人に手を出してるのかと思ってましたけど、違ったんスかねぇ」
危なかったです、と安堵する。手を出してたら今頃、全部ヒゲをガムテープで抜いてやってましたよ、と怖い提案。
人には秘密にしておきたいことの、ひとつやふたつあるだろう、とユリアーネは無言で聞いていた。それにたんぽぽの花言葉。『真心の愛』。それだけでなんとなくわかる。
「……大人には色々あるんですよ、きっと。はい、乾きました」
電源をオフにし、アニーの髪に触れる。細く柔らかな猫っ毛。フローラルの香り。
「えへへ。ありがとうございます」
「どういたしまして」
ドライヤーのコードをまとめながら、ユリアーネはこの後のことを考える。今日は疲れたから、早く寝て、明日の学校に備えて、お店に行ったら——
「ユリアーネさん」
「なんですか?」
真面目なアニーの視線。ユリアーネは受け止める。
「やっぱり、店でもディアンドルを——」
「嫌です」




