115話
寂しそうな顔をしたアニーが、ディアンドルを手に、か細く泣き言を言う。
「うーん……楽しいんで、もっといたいですけどね。そうですね、でもなぁ……」
「? なんですか?」
後ろ髪を引かれるように、出かかっていたユリアーネは振り返る。
もったいつけながら、アニーは悔しがる。
「ユリアーネさんのディアンドル……これで見納めかと思うと、辛いっス……もちろん、いつもの制服も美しいっスけど、せめて写真に——」
「嫌です。少し恥ずかしいんですから」
聞き返さなければよかった。スタスタと出入り口に向かいユリアーネは歩を進める。
「そんな……っス……」
寂しそうに服を着ながら、アニーは俯いた。しかし。
「……たまになら着てもいいですよ……家で……」
ボソッ、とユリアーネが許可を出す。アニーだけならいい。むしろ、完全に拒否すると、寝て起きたら着替えさせられている、なんてこともあるかもしれない。この人なら……やりかねない。
それを聞き逃すわけもなく、アニーは下着姿のままユリアーネに詰め寄る。
「!? ホントっスか!? 店は? 店では着ないんですか!?」
「店では嫌です」
そこはきっぱりとユリアーネは断る。なにがなんでも断る。
しかし、ははぁ……と、悪知恵を働かせてアニーは満足しだした。
「……つまり、ボクだけのものっス。ありがとうございます!」
小躍りしながら、ユリアーネの両手を持ってブンブンと振り回す。
しかし、感情のない表情でユリアーネはひとつ意見する。
「アニーさんも着てくださいよ。私だけは嫌です」
やるなら道連れ。とはいえ、アニーは喜んで着そうだが。
「え? ボクもっスか? ボクはどうでも——」
「嫌なら着ません。こちらはテオさんからいただきましたが、お返しさせていただきます」
残念です、とユリアーネはため息をつく。ディアンドルは支給されたので自由に使用できる。また人手が足りなくなったら、こちらを着て手伝えるようになった。が、アニーが嫌がるなら、この話はなかったことに、と片付ける。
「着ます! なので、ぜひ!」
どうか! と、すごい勢いでアニーは提案を飲んだ。ユリアーネのディアンドルのためなら、なんでも受け入れよう。
アニーの着替えも終わり、最後にテオに挨拶。常連客も引き上げたタイミングだったので、自由になっていた。
「二人とも、今日はありがとう。本当に助かったよ。あとはあいつと、アルバイトの子だけでなんとかなりそうだから。気を付けて帰ってね」
給料はダーシャから、とテオは付け加える。
「こちらこそありがとうございました。とても勉強になりました。またぜひ、人手が足りなければ呼んでください」
「ボクもです! また羊さんとヤギさんにも会いたいですし。近いですから、ちょくちょく来ます」
ユリアーネとアニーは、顔を見合わせて、意思を合わせた。やはり、違う店で働くことに収穫はある。少しずつ取り入れていきたい。
その言葉に、安堵の表情を浮かべたテオは、ぜひお願いすることにした。
「うん、助かるよ。よろしくね」
そして二人は店を後にする。日は暮れかかってきており、風も冷たい。
しかし、空を見上げてユリアーネはアニーに声をかけた。
「それでは、帰りますか」




