113話
主役であるパウラは、せっかくなので国旗の刺さっているものを選んだ。それを取り外し、口に運ぶと、ほのかな甘さと、思ってもみなかった歯応えがあり、虚をつかれた。
「うん、美味しい。甘すぎず、でも食べごたえがあって、何個でもいけそう! シュークリームかと思ったら違って、ビックリした」
予想通りの反応に、ダーシャは解説を付け加えた。
「そう、みんなシュークリームだと間違えるけど、これパン生地なんだ。だから菓子パン。パンをくり抜いて、中にアーモンドペーストや生クリームを入れてフタをする。本物はもっと大きくて、かぶりつくんだけど、ひと口サイズだから食べやすいでしょ?」
自分も食べる。うん、違う店の材料だけど、美味くできた。そして、遅くなったが、ドリンクを提供する。
「……コーヒー淹れてあるよ。少し冷ましてある。ゆっくりね」
その発言にパウラは驚き、ほんのりと謝絶。
「いや、でもコーヒーはあまり……」
「大丈夫。今日はみんなこれを飲んでるよ。どうぞ、『たんぽぽコーヒー』です」
朝から、常連客達はコーヒーを全てこれに変更していた。自分達は気にする必要はないのだが、あえてみんな同じものを、という絆。
「……その手できたの。ていうかみんな? なんで?」
変なの、とパウラは肩をすくめた。当然、意味はわかっている。だからこそ少し、おどけてみせる。
「さぁ? みんなで共有したいんじゃない? まぁ、そんなにガブガブ飲まなければ、カフェインありでも問題ないはずなんだけどね。せっかくだから」
セムラに続き、こちらもダーシャは自分のぶんも用意し、一緒にいただく。今日だけここの家族。
パウラは感謝しつつ、コーヒーカップに手を伸ばした。
「……ありがとう。いただきます……うん、美味しい」
今まで飲んだコーヒーのなかで、一番染み渡る。ドイツに生まれてよかった、と自分の幸福を祝福した。
ひと口、コーヒーを飲んだダーシャが、小さな声で伝える。
「……おめでとう」
それを震えながら受け止め、
「ありがとう」
と、パウラは返した。




