112話
「うーん、様子を見にきただけだし。でもなにも頼まないのもなぁ」
だいたいのものは賄いとして食べたことがあるので、味はわかるのだが、ダーシャ風は少し気になる。とすると、どれにするかでパウラは悩み、優柔不断になった。
しかし、それを見越してダーシャが先手を打つ。
「そう言うと思って。ウチの店でも冬限定で出してるものがあって。よかったら食べてみて」
「冬限定?」
限定という言葉に弱い。パウラは身を乗り出して解説を求めた。
「うん。ヴァルトは北欧の森をイメージしてるのは知ってるよね? その北欧の中でもスウェーデンで、クリスマス付近からイースターまでの間に食べるお菓子があるんだ。まぁ、今の時期はちょっと早いかな?」
元々はアニーから教えてもらったものだが、みんなに好評なのでヴァルトでも出すことになったもの。それをひっそりとダーシャは仕込んでいた。
ふふ、と笑みを浮かべてパウラは頬杖をついた。
「気になる。それお願い」
それを聞き、ダーシャは一旦キッチンへ戻ると、木製のプレートに四つ、小さなシュークリームのようなスイーツ。そのうちのひとつにスウェーデンの国旗が刺さっている。
「昔はカトリックにおいて、イースター前に断食をするんだけど、その断食前に高カロリーのものを食べようって食べられたのが始まり。いわゆる『肥沃な火曜日』ってやつ。その日だけ食べられていたんだ」
スッ、とパウラに差し出し、解説も添える。
甘く、ほのかな優しい香り。あまりカロリーを摂らないようにしたかったが、これを前にして手が伸びない女子はいない、とパウラは確信した。
「一年に一度か……日にちが近づくと、なんか楽しみになってきそう」
「それが少しずつ時代と共に変化して、次に断食中の火曜日に増え、最終的には、クリスマスの終わりからイースターの日まで、三ヶ月以上食べられるようになった。少し有り難みは減ったかもね」
どっちがいいんだろうね、とダーシャは答えを出せずにいる。
「でも、好きな人にしたらたまらないから、私はそっちの方がいいと思うけど」
視線はスイーツに釘付けになっているが、パウラは会話を続けた。初めて見たような、そうでもないような不思議なスイーツだ。
「実はこれ、ドイツやデンマークの習慣が元になってるんじゃないかとも言われてるんだけど、それは置いといて、はい。どうぞ。セムラです」
自信を持って送り出す、スウェーデンのお菓子『セムラ』。ダーシャもひとつ、手にする。




