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111話

 はにかみながらも、パウラは感謝をする。昔から知っている人だからこそ、より感謝が深くなる。


「ありがとう、ヘルマンさん。というかテオ、店は——」


 と、店主のテオまで一緒に盛り上がっているのを見て、キッチンのほうを見ると、カウンターの先に見覚えのある姿を確認した。


「……そっか」


 少し複雑そうな顔に変化する。


 ユリアーネはそれを見逃さず、ある種の予想を立て、カウンターへ案内した。


「もうみなさん、家族みたいなものですね」


 この店の雰囲気や、人々の温もり。部外者であるはずの自分も心地いい。自然と顔が綻ぶ。


「そうね、いいことも悪いことも全部知ってるし。近所の家の壁に穴が空いたとか、学校でテストが何点だったとか。そんなことも流れてくる。いや、別にそこまで、ってくらい」


 昔を思い出したりしながら、パウラは苦笑する。先のヘルマンに怒られたこと。褒められたこと。店の空気を吸い込み、話を続けた。


「でも、そんな時に逃げ出す場所がここ。悪いことがあった時、だいたいみんなここに来るから。探すのが簡単。オーナーが変わった時、少し変わったけど、ほとんど一緒」


「いいことがあった時も、みんなここ、ですね」


 柱の傷。少しへこんだカウンターのテーブル。それら全てが今に繋がっている、とユリアーネは感じ取った。今のオーナーが買い取った時も、店の大部分はそのまま使用しているらしい。


「それもそうね」


 そして、静かにパウラが席に着くと、ユリアーネはキッチンへ。ダーシャに変わる。


 そのダーシャは事情を聞き、少し迷ったが、カウンターに出ることにした。パウラと対面する。


「……いらっしゃい、って言っても僕の店じゃないんだけどね」


 照れくさそうに苦笑する。お互い目線は合わせずに、ぼんやりと見合う。


「……久しぶり。そっちの店はどう?」


 パウラも同様に少し恥ずかしそうに、会話を交わした。


 ヴァルトのことを思い出しながら、ダーシャはひとつひとつ丁寧に説明かつ、愚痴る。


「大変だよ。オーナーも変わるし、店長の子は勝手に料理食べちゃうし、テーブルウェアに勝手に名前つけてる子もいるし。毎日大変」


「でも楽しそう。昔のダーシャはもっと、余裕がない感じだった」


 もっと、尖っていたから。そう、パウラは言葉を紡いだ。昔から知る者同士、遠慮なく浴びせ合う。


 数秒の無言のあと、ダーシャが先に口を開いた。


「そうだ、なにか食べる? だいたいのメニューは作れるけど」


 ここの味とは違うかもしれないが、作れないものはほぼない。ヴァルトと似通っているものもある。

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