109話
「……すごいところですね……」
彼から郷土愛のようなものを感じ、ユリアーネは率直な感想をこぼした。
彼は続けて、今後のこの店のことを考える。
「でも、パウラが……あ、パウラってのは休んでるスタッフね。あの子がまぁ、少し休みがちになるだろうから、なんとかしてみんなで支えないとね」
「……そう、ですね」
ここまで愛されているお店というものを、ユリアーネは羨ましく感じる。果たして、自分達のヴァルトはどうだろうか。採算度外視、だけではいけない。しっかりと経営のことを考えつつ、スタッフだけではなく、お客様と一緒になって作っていく。
「私も、来てよかったです」
ふいに笑みが溢れ、抽象的だが、「頑張ろう」という気持ちが湧いてきた。これくらい愛されるお店を目指さなければ。
「賑わってるね」
その後、賑わいもピークを越した頃に、ダーシャが店に顔を出してきた。午前だけヴァルトで働き、午後になってブッフへ。アニーのことが気になっていたのもある。
それを発見したアニーは、驚きの声をあげた。
「店長! どうしたんですか、ここまで——」
そして、思い込みの激しさから、ダーシャの視野にユリアーネの姿が入らないよう、彼女を体で隠す。
いつもながら、突飛な行動をするアニーの背中を、冷ややかな目でユリアーネ見つめる。
「……なんですか、アニーさん?」
「店長はきっと、ユリアーネさんのディアンドルを見に来たんですよ。下心しかないっス」
ここにボク達を送り込んだのはそれが目的っスよ! と、警戒心を最大まで高めた。ユリアーネは勝手に来ただけだが、都合よく忘れている。
はいはい、と受け流しつつダーシャはキッチンのテオに、カウンター越しに声をかけた。
「いいよ、テオ。今日は僕がやるから。みんなと飲みなよ」
肉料理の香ばしい香りが漂うキッチンで、ダーシャの姿を見たテオは喫驚する。
「マジ? どうしたんだ急に」
ありがたい申し出だが、唐突すぎて気後れした。こいつのことだから裏はないんだろうが、今日は忙しい。申し訳なさが勝つ。
しかし、紺のチェスターコートを脱ぎながら、ダーシャはやる気に満ち溢れていた。
「今日はそういう日でしょ。臨時のヴァルトのスタッフだけになっちゃうけど、この店なら許される。なんでもありだからね」
元々、同じオーナーだし。地域密着型のここなら問題はないだろう、という考え。
「……悪いな。そのうち、そっちの店で人手が足りなかったら、俺が手伝いに行くから」
迷いつつも、テオはありがたく受け入れることにした。




