106話
ふぅ、とユリアーネは息を吐いて落ち着く。
「もういいですよ。とりあえず、普通にしてください。コミュニケーションが取れませんから」
なんで自分がこんな役割に、と内心でもう一度ため息。
最近怒られてばっかりで、落ち込みつつもアニーは返事を返す。
「……はいっス……」
一旦は場は整え、一同は開店作業に向かう。モーニングの準備もしなきゃだし、清掃も。やることは色々ある。
パンを焼きながら、テオはユリアーネにひとつ質問をする。
「……ところで、なんかものすごく敵意を向けられてた気がするけど」
それどころか、現在進行形で姿を確認するたび、アニーから威嚇をされているような気配をテオは感じ取る。
「大丈夫です。接客は普通にできます……たぶん」
自信なくユリアーネは返答をする。アニーのことが読めないのは彼女も一緒。なんせ家までついてくる。
そのアニーだが、接客は意外にもちゃんとやる。スタッフ間のトラブルに、お客さんは巻き込まない。トラブルを巻き起こしてるのが自分だという自覚はない。手を挙げたお客さんに呼ばれる。
「おはようございます。注文ですか、どうぞっス。コーヒーを……え?」
常連らしき男性からオーダーを受けるが、コーヒーに対して要求があり、警戒しながらテオの元へ。キッチンでは、相変わらずパンを焼いている。クロワッサンと思しき形。
「……テオさん、なにやらお客さんからコーヒーに注文が……」
「え、どんな?」
そう言いながらテオが詳細を聞き出そうと、アニーに近づく。しかし。
「おっと! それ以上近づいちゃダメっスよ! 二メートル以上離れて話しかけてくださいっス!」
「……もうなんなの」
アニーから怒声を浴び、一瞬テオはフリーズする。だいたいの事情は察してきたが、そうなった理由はわからない。
しかし、お客さんのこととなると別で、普通にアニーは会話を続ける。
「コーヒーなんですけど——」
その求められた内容を伝える。なぜそう言われたのかはわからない。だが、なにかワケありという感じで、置いてけぼりの自分にムカムカする。
「——ってことっス」
伝え終わると、テオはなにか物思いに耽り、恥ずかしいような嬉しいような、不思議な表情を浮かべる。
「……なるほど。いや、みんなまで気づかう必要ないのに……」
「?」
気づかう? なににだろう? とアニーは思考したが、やはり答えにたどり着けない。考えてもわからないモヤモヤは、動いて発散するしかない。
よし、とテオは発起した。
「わかった。そのように作るよ。少し待ってね」
そうしてコーヒーの準備をする。心なしか、少し笑顔になる。




