105話
店に着くと、アニーが先行してドアを開ける。鍵はかかっていないため、自由に出入り可能だ。これでも悪いことを考える村人はいない。信頼のなせる技。
開店前の店に入ると、昨日のアニーと同様、ユリアーネは趣のある店内に感嘆する。本好きにはたまらない、図書館とはまた違う本の空間。これはこれで大好きだ、と目に焼き付ける。
そこに近づくひとつの影。
「どうも、キミがユリアーネさん? はじめまして。アニーちゃんから連絡あって、今日は手伝ってくれるんだって? ありがとう、助かるよ」
と、握手で伸ばしたテオの右手を、「ていっ」とアニーは叩き落とす。
「?」
叩かれた右手をさすり、テオは首を傾げる。え、何事?
厳しい目つきでアニーはテオを睨む。きっとなにかやましい気持ちがあったに違いない。
「狙いはわかってるっスよ」
ささっとユリアーネを背後に隠し、バックヤードまで歩を進める。
「……うーん……」
なにか勘違いしていることはテオもわかったが、なにぶん身に覚えがないので、否定もしづらい。狙いとはなんだろうか。
しかしユリアーネは至って冷静。普通に会話を開始する。
「気にしないでください。はじめまして。やはりみなさん気づいてらっしゃいますか?」
自分はわかっています、と暗喩。こんなことを考えるのはアニーだけ。
そこにホッとしたテオは、ちゃんとした会話ができることに喜びを噛み締める。
「みたいだね。もうここでも長いからね。ダーシャもなんとなく気づいてるみたいだし、だからこそアニーちゃんを寄越してくれたのかもだけど」
現在そのアニーちゃんは若干ややこしいことになっているが、とは本人がいるから言わないでおこう。
その複雑な現状を読み取り、ユリアーネが行動に移る。
「かもしれません。それと、みなさんより先にはなりますが、おめでとうございます」
「?」
なにに対しての祝福なのかアニーは疑問だが、警戒は怠らない。いつテオが牙を剥くかわからないからだ。
驚きつつも、テオは感謝する。
「ありがとう。まさか、その場にいなかったユリアーネさんにまで気づかれるなんてね。ていうか、アニーちゃんどうしたの?」
気まずそうにユリアーネの顔色を伺うアニーに、テオは声をかけた。またなにか企んでいるのか。
しかし、当のアニーはビクビクとわななく。
「……今日は喋っちゃいけない日だったっス……」
「?」
会ってまだ二日目だが、さっぱりアニーという子は読めない。テオにとっての彼女の印象はそれ。いい子なんだけど。




