81.ローザ
81.ローザ
風呂作り2日目
学園から真っ直ぐ屋敷へ帰り、予定通り石の板を作った。合計96枚を作り終える。
整地用のエンキャンプメントも問題無く発動した。
このエンキャンプメントだが10歳の頃に行った遠征で、野営地を作る時に教えてもらった物だ。
地面を平にするだけの魔法だが人力でやる事を考えたらぞっとする。ちなみにこの魔法も詠唱魔法だ。
この魔法も土魔法に属しているため、オレが使うと魔力効率がイマイチ悪い。
エルに貰った魔力を使っても1/3を平にしただけで魔力切れになってしまった。明日もエルに頼まないと。その内“僕は魔力タンクじゃありません!”って切れられそうだな・・
今日の作業はここまでになりそうだ。
まだ時間も早いしローザに風呂の湯を魔道具で出せないか聞いてみたい。
オレはローザが寝泊まりしているメイドや使用人用の別館に向かう。
屋敷の隣に建っているのですぐに到着した。別館に着いてからローザの部屋が判らない事に気が付く。どうしたものかと入口で立ち尽くしていると、休憩中だったであろうメイドが奥の部屋から顔を出してくる。
「すまない!ローザの部屋に行きたいんだ。場所を教えてくれ」
まさかオレが使用人の別館に来るとは思わなかったのだろう。慌てながらローザの部屋を教えてくれた。
「ありがとう、助かったよ」
「い、いえ……アルド様がこんな場所に何の御用でしょうか?」
「ローザに魔道具を作ってほしくて相談にきただけだ」
「そ、相談ですか……分かりました」
オレよりは年上だがまだ10代だろうメイドがオロオロとしている……
「オレは序列が好きじゃないんだ。普通に話しかけてくれていいぞ」
「そ、そう言われましても」
オレは肩を竦め笑いながらメイドに話しかけた。
「名前は?」
「は、はい!ステラです」
「ステラ、休憩中悪かったな。助かったよ、ありがとう」
それだけ言って踵を返してローザの部屋に向かう。
ローザは片足だからだろう1階のトイレの隣の部屋だった。部屋の前まで行くと少し臭う……片足だからトイレに近い部屋を宛がわれたと思う。決してイジメではないはずだが。
奴隷の扱いは千差万別・・見目麗しく主人の寵愛を受けヘタな貴族より良い生活をする者から、納屋で寝起きして起きてから寝る寸前まで働かされる者もいると聞く。
そんな中でローザの扱いはかなり好待遇という話だ。
3食腹いっぱいでは無いが食べられてメイドと同じ部屋を与えられる。これだけでも奴隷としては破格だが、今のローザは何の仕事もしていない。
メイドの中にはオレの妾だと思っている者もいると聞いている。
爺さんに言われた1年以内でローザの価値を示さないと本当に妾にするしか無くなりそうで怖い。
部屋の前でそんな事を考えていたら不意に扉が開いた。サラだ。
「あ、貴族のお兄ちゃんだ。お母さん、貴族のお兄ちゃんが来たよ」
オレの顔を見るとすぐに部屋の中に戻ってローザを呼びに行く。
部屋を覗くと椅子に座ったローザが壁に寄りかかって立ち上がろうとしていた。
「ローザ、良い。座ってろ」
「そういうわけには……」
「大丈夫だ。ここには3人しかいないんだ。誰が文句を言うんだ」
オレが笑いながら言うとやっと元の椅子に座ってくれる。
「今日は突然、どうされましたか?」
オレの顔色を見ながら恐る恐る聞いてきた。オレの機嫌でこの生活が終わってしまうと思っているのだろう。
やはりこんな関係は不健全だ。一方的に庇護するなんてオレにとっても良くない。
「ローザ、3つだ。話が3つある」
「3つですか……それはサラが聞いても良い話でしょうか?」
サラが聞いて良いのか判断がつかない…大まかな内容をはなしてみる。
「1つは魔道具の事、1つはこれからの事、1つはその足の事だ」
オレの言葉に“これから……”、“足……”と何度か呟いている……
「サラ。ジェニーさんの所に行ってきて……アルドが来たと言えば判るから」
「……うん」
サラは不安なのだろう。オレとローザの顔を何度も見ながら部屋を出て行った。
サラを見送ってからローザは居住まいを正してオレを見つめる。
「お聞きします」
そう、話すローザは毅然として美しかった。
「まず1つ目の魔道具なんだが以前、もう魔道具は作らないと言っていたが心は変わらないのか?」
「……」
「……」
「2つあります。1つ目は研究の事故で沢山の人に迷惑をかけました。その1人に夫もいます。あの子の父親は事故で亡くなりました。また魔道具に関われば今度こそあの子は私を許さないでしょう……」
「そうか」
「もう1つはたとえやりたくても出来ないという事です。アルドは魔道具職人の仕事は具体的に何をすると思いますか?」
「聞いている話では魔石に特殊な付与をして色々な効果の魔道具を作ってると……」
「魔道具は道具の方に魔法陣を刻み、魔石は燃料になります」
「そうなのか。道具の方……そうすると道具の方を触るわけか……」
「その通りです。しかし、机の上で触れる大きさの魔道具など一握りにしか過ぎません」
「魔道具職人は肉体労働なのか……」
「確かに机の上で小さな魔道具を触る程度は出来るでしょう。でも、その程度なんです。片足で出来る程、甘い技術ではないのです」
そう呟くローザの顔からは片足になった悲しみと悔しさが滲みだしている。
「オレの話を全部した方が良さそうだ。聞いてくれ」
「……はい」
「1つ目、水とお湯を出す魔道具を作ってほしい」
「……」
「2つ目、実はお爺様から1年以内にローザの価値を示せと言われている。もし価値が無いと判断されたらここには居られないかもしれない」
「そんな……1年……」
回復魔法のヒールは熟練すれば欠損の修復も出来るようになる。
オレも学園の授業で動物の四肢を修復する事も出来るようになった。
しかし学園で教えてくれるのはここまで……何故か? それはヒール最後の授業が人体の欠損の修復だからだ……
元々ヒールという魔法は自己治癒能力を上げて治療するのではなく、魔力で傷を負った肉体を作って張り付ける魔法である。
ヒールを使っている時点で、小さな欠損の修復を出来ている事になるのだ。
しかし実際には欠損を修復する時に熟練していない者が魔法を使うと、手を修復しようとして足が生えたり……見た目は成功でも激痛が発生したり……最悪は死に至る事もある。
オレの想像では血管の中に空気やゴミを入れてしまったり、見た目だけ整っているだけで骨や神経、筋肉が正常に出来てなかったりすると思われる。
前世に医療に携わっていればもっと自信を持てたのだろうが。
しかしどこかで人体実験をしなければ……オレの中で悪魔が囁く声が聞こえる。
ローザの存在はオレからみれば都合が良い。正直な所、情も移る前だ。
オレはこれから立場を利用して非道な行いをしようとしている。日本なら“人体実験”と後ろ指を指される行為だろう。
……最後の授業、人体の欠損の修復をローザで試させてくれと頼むつもりだ。
オレは意を決してローザに話し出す。
「3つ目、オレは学園で回復魔法を選択している。動物での欠損修復は経験がある。最後の人体の欠損の修復をさせてもらえないだろうか」
「!!……」
オレの言葉にローザは明らかに希望に満ちた眼を向けてくる。
「是非おねg……」
「まて!!」
ローザはオレに欠損を治してほしい。と言うつもりだったのだろう。しかし、メリットだけでデメリットを提示しないのはアンフェアを通り越して詐欺だ。
オレはそこから欠損の修復のリスクを話した。
「人体は複雑だ。失敗する可能性が高い。失敗の度に生えた足を切り落とすんだ。痛みは普通に足を切り落とすのと変わらない」
「……」
ローザは希望に満ちた眼から一転、眼に恐怖を浮かべている。
そんなローザを見てオレに迷いが出てくる。このまま強引に進めていいのだろうか。一度、冷静に考え直すべきなんじゃないだろうか?
「ローザ、一度、今の話は忘れてくれ。少し冷静になって考えてみる」
「待って下さい。足の欠損の治療をお願いします……」
「さっき言ったリスクがあるんだぞ。お前も一度、冷静になって考えた方が良い」
「アルド、あなたは勘違いをしている」
「勘違い?」
「本来、奴隷である私に選択の余地は無いの。五体満足であろうと主人が欠損の修復を修行したい。と言えば健康な四肢を切り落とされて修行の素体になるのが普通なの……」
「そんな事が許されるのか?!」
「法で禁止されていても訴える人がいなければ許されているのと変わらない……」
「……まさか」
「私は治療を受けます……受けさせて下さい」
「なんで……」
「私は奴隷に落ちた時にサラの事以外は一度、諦めたんです。なんとかサラだけは奴隷から解放したかった。でも、そんな方法は無くて……一時は死ぬ事ばかり考えていました」
「……」
ローザは笑顔でオレの眼を真っ直ぐに見つめてくる。
「でも今は希望が見える。先程アルドはご当主に“価値を示さないと”と言いました。それは私にとってチャンスです。本来は私に興味など示されないご当主が私の有用性を見て下さるのですから」
「それは……そうかもしれないが……」
「私は今回“有用性を示す機会”と“足を治す機会”を頂きました。自分でも貪欲なのは分かっています。でも諦めたくないんです。どんな事にも耐えてみせます。どうか私に足を……お願いします……どうか……」
「……分かった」
「ありがとうございます。この御恩は一生忘れません」
「その言葉は全部、上手く行ってから言ってくれ」
重い空気からやっと解放された。そこからはお湯を出す魔道具の仕様を話した。
後はサラへ魔道具職人復帰の説明か。
「サラにはオレから言おうか?オレが無理を言って魔道具作りをしてもらうと言えば抵抗は少ないだろう」
「……いえ、私が言います。足が治ると聞いて私はやっぱり魔道具に関わりたいと思ってしまいました。正直に気持ちを打ち明けてみます」
「分かった」
今回はお湯の魔道具はお預けになった。ローザの足が治ってからの話ではあるし、研究に魔石が大量に必要だからだ。
来週の闇曜日にルイス達と依頼を受ける予定なので魔石はその時に狩ってこようと思う。
後は足の治療の相談だ。実際、オレのヒールの腕では10cm程度を修復するのが限界である。ローザの足は膝の上10cm程から欠損していた。
全部を治すには最低でも8~10回の治療が必要になる。きっと関節が一番難しい。特に足首から先、筋肉、神経、じん帯……記憶の中の理科室の人体模型を思い出す。
人体の構造か、ふと思い出した。ソナーがあるじゃないか。ソナーで自分やローザの健康な方の足を調べれば知識を補完できる。
早速、自分の体にソナーをかける。1度では判らない事でも2度、3度と繰り返す内に段々と理解していく。
後は失敗して切り落とす場合があるために治療する場所も必要になってくる。
それと治療は風呂を作り終わってからにする。切り落とす事を考えたら足は風呂に入って清潔にしておきたい。
酒を蒸留して高濃度アルコールか……いつか消毒も作ろう。
実は密かにトイレ事情も改善したいと思っている。小さい方は良いのだが大きい方は……魔道具で水洗トイレと洗浄付きトイレを作るのが次の目標だ!
現代の日本を知っているからだろう。異世界転生も楽じゃない。そう思えた。
”プロローグのあとがき”にWifuLabs様のAIで作ったイラストを掲載してありますので見て貰えると嬉しいです。
次話は毎日8:00に掲載の予定です。
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