62.到着
62.到着
オークを使った襲撃から1日後。特に何事もなく進んでいた。
「昨日のオークの件から気になる事はあるか?」
オレは馬車の中のノエルに話しかける。
「特には無いが私は昨日から馬車の中だ。逆にアルド達の方が判るんじゃないのか?」
「まあ、そうなんだろうが…怪しい所は無い…な」
「ふむ、あまり警戒しすぎても疲労が溜まる。適度に警戒する程度が良いと思う」
「第2種戦闘配置か」
「何?」
「いや、こっちの話だ。ちょっとそこらも考えないとな」
ノエルのジト目を無視しながら戦術と指揮を考えていた。
このまま順調に進めば明日の夕方にはブルーリングの街に到着できる。
ブルーリングの街に到着してしまえば、簡単には襲撃できないはずだ。
このままの態勢で程良くリラックスできれば一番だろう。
騎兵は馬車を守るように配置されている。
エルの馬はオレのすぐ後ろだ。
オレは話をするためにエルに馬を寄せる。
「エル、緊張してるか?」
「程よい緊張感があって今は良い感じですね」
「そうか、あまり緊張しすぎても本番まで持たないからな。気を抜くぐらいがちょうど良い」
「そうですね。もう少しだけ気を抜く事にします」
「それが良い」
エルに声をかけて元の配置に戻る。
前に探索魔法が出来ないか考えたが、このような場面ではやっぱり有用だ。
試しにソナーの要領で魔力を薄く広範囲に打ち込んでみる。
周りの馬がオレの魔力に驚いて一斉に警戒しだした。
騎士や御者が馬を宥めている。
(やばい、生物だけなら結構遠くまで判ったけど、この様子だと相手にもこっちの位置がバレまくりだ)
潜水艦の実際のソナーも敵に自分の位置が判ってしまう。
元々がそういうものなのだから、この結果も当然であった。
「敵襲か?!総員配置につけ!」
ノエルが馬車の中から叫ぶ。
「すまない!オレだ。気配を探る魔法を使ったんだ!」
オレの声に反応してノエルが叫んだ。
「少し早いが休憩だ!馬と馬車を端に寄せろ!」
隊はゆっくりと端に止まり休憩の用意をする。
オレはノエルとエル、オリビア、ルイス、ネロ…つまり全員の前で釈明をさせられた。
「すまない。魔力を薄く広げて周囲の気配を探ったんだ」
「それで何故、馬が怯える?」
「オレの魔力に反応したんだと思う」
「馬は繋いであるな?」
「はい。大丈夫です」
ノエルの声に騎士が答える。
「もう一度やってみてくれ」
「分かった」
オレは周囲にソナーを打込んだ。
やはり馬が怯え、周囲から鳥や獣が逃げ始めた。
「私には何も感じられなかったな…」
「僕は探るような魔力を一瞬感じました」
「私も感じました」
「私も違和感はありました」
「私も判ったわ」
「ワカリマシタ」
「特に何も感じませんでした」×8騎士(魔法使えない。身体強化のみ)
「何か違和感を…」×3騎士(魔法使える)
「特に何も…」×6メイド
「オレも違和感があったな」
「オレはすごく判ったぞ」
この結果からどうも人の中でも魔法使いには感知されるようだ。
あと獣人には特に気付かれるらしい。
馬の様子や鳥、獣の様子を見ると動物全般には気づかれると思って間違いない。
「なるほど。それでどの程度の距離と精度なんだ?」
「さっきので半径200メード。精度は魔力の大きさが判るぐらいだ。半径200メードの中には魔物や人はいない」
「そうか定期的には使えるのか?」
「この範囲ソナーは結構な魔力を使う。1日に何度もは無理だ」
「では探索に組み込むのは無理か」
「すまない」
「いや良い。怪しい気配があった時だけで良い。頼めるか?」
「分かった」
「助かる」
こうしてオレはまた欠陥魔法を手に入れた。
魔力消費が大きく、精度は荒い(ここは訓練で改善の余地ありだ)、おまけに敵には気づかれる可能性大。
しかし障害物を無視し、数、魔力の大きさ、距離、場所が判るのは魅力的だ。
使いどころは限定されるが有用な魔法である。
(次からは布でも被って空から打つか。空なら見つかっても人だとは思われないだろ。光学迷彩でもしてれば完璧なんだけど…)
「エル、魔力共鳴しておこう」
「分かりました」
エルと魔力共鳴をして、エルもこの範囲ソナーが使えるようにする。
「一度、使ってみていいですか?」
エルがノエルの顔を見て聞いた。
「どうぞ。エルファス様」
ノエルの言葉にエルが範囲ソナーを一度、打つ。
おお、範囲ソナーを使われるとこんな感じなのか。確かに探られるような魔力を感じる。
同じ範囲ソナーなのに何故か周りの反応が戸惑っている。
「どうした?」
オレが聞くと、どうやらオレの範囲ソナーとエルの範囲ソナーだと感じ方が違うようだ。
その証拠にエルの範囲ソナーだと馬が怯えずに鳥も飛び立たない。
「これは、、エルファス様に使ってもらった方が良さそうだ」
ノエルが真面目な顔でそんな酷い事を言う。オレがオリジナルなのに…泣きたくなってきた。
そんなオレを見ながらマールが話し出す。
「きっとアルドの魔力は怖いのね」
「どういう事だ?」
「戦闘の方法と一緒で探る事に特化して遊びが無いんだと思う。だから野生動物はよけいに恐怖を感じるんじゃないかしら?」
「エルは範囲ソナーの魔力を打つにも周りへの配慮ができていると?」
「まあ、そうね」
納得してしまった。オレでもいきなり知らないヤツに“探ってやる!”ってガン見されたら怖いからな。
(しかし、効果が違うという事は…エルはオレの範囲ソナーをこの短時間で自分なりにアレンジしたのか…アシェラと言い天才が多すぎる)
「エル、もう一度、魔力共鳴をしてくれ」
「はい」
オレは魔力共鳴をし、エルの改良点を理解する。
「ノエル、もう一回いいか?」
「好きにしてくれ。ここは魔法の研究室じゃないんだがな」
ノエルに嫌味を言われながらも範囲ソナーを使う。
今度は馬も鳥も動物も怯えないようだ。
なるほど、隠そうとしても僅かに魔力の痕跡は残る。そうじゃなく周りを受け入れて同化する魔力。流石イケメンだ、器がオレとは違った。
「ノエル、待たせてすまなかった。もう大丈夫だ」
「良い。これで当面の安全は保障されたからな」
そこからは定期的にエルとオレで交代して範囲ソナーを使う。
敵にバレるよりも奇襲の方がマズイ。次の休憩の時に騎士全員を集めて話し合い、満場一致で決まった。
結局、その日は何の問題も無く宿場町へ辿り着く。
部屋割りは変わらずだ。
エルとオレ、マールとオリビア、ファリステアとアンナ先生、ルイスとネロだ。メイドは興味はあるが知らない。騎士はシラネ。
部屋に入って装備を外す。念の為に短剣2本は装備し、ナイフ2本を右のふくらはぎと左の腿に隠し持つ。
エルを見ると護身用のナイフの1本を懐に忍ばせていた。
「エル、盾って魔力変化で作れるのか?」
「盾ですか?」
「いや、ちょっと気になっただけなんだけど」
「そうですね。盾か。起点になる物を持てば…」
「エル?」
「あ、すみません。今度、試してみます。兄さまも魔力で盾が作れれば動きに厚みがでますよね」
「そうだな。おもしろいな…」
「ですよね。ブルーリングに帰ったらやってみましょう」
「おう、楽しみが出来た」
いつの間にか扉が開いていてマールとオリビアが入口に立っている。
「ノックをしても返事が無かったので開けてしまったのですが」
「アルドとエルファス様。顔以外は似ていないと思っていたのですが…」
「どういう意味だ(ですか)」
オレとエルの言葉がハモった。
マールとオリビアは夕飯を呼びに来てくれたようだ。
気を取り直して4人で1階の酒場に降りていく。
騎士がオレ達の席をガードし、メイドが食事の用意をしている。
周りの客が何事かとこちらを見るが、騎士の無言の圧力に顔を背けた。
居心地が悪いのだろう。他の客は食事を済ますとすぐに店を出て行ってしまう。
オレは厨房の入口から奥に入り、店主らしき者に近寄って話しかけた。
「店主か?」
「え?は、はい。何か粗相でも…」
店主はひどく怯えている。申し訳ない気持ちが湧いてきた。
「くつろがせてもらっている。ありがとう」
「いえ、貴族様に使って頂けて光栄です」
オレは苦笑いを浮かべて店主に聞いてみる。
「普段はこの店では1日にどれぐらいの売り上げがあるんだ?」
「え?売上ですか?」
「そうだ」
「そ、そうですね。だいたい金貨30枚程かと…」
(だいたい売り上げ30万円か。妥当だな)
「分かった」
オレは厨房から出てノエルの前に向かう。
「ノエル、この宿に全部でいくら払ってる?」
「宿に払う金か?」
「そうだ」
「たしか金貨30枚のはずだ」
「それは宿代も含めてか?」
「そうだ」
「3倍だ」
「3倍?」
「3倍払え」
「3倍だと?何故だ?」
「いいか、オレ達は26人と馬車と馬がいる」
「ああ、普通の宿泊よりは色を付けている」
「この酒場の売り上げは1日で金貨30枚だ」
「酒場の売り上げまで払うのか?」
「当たり前だ。騎士が威圧する場所で酒なんか飲めるか。補填するのが当たり前だ」
「今まではそんな事していない」
「お前がこの店の主人だとしても同じ事を言うのか?実際に損をしてるんだぞ?」
「それは…そうだが…」
「それに、ここはもうブルーリング領だ。領民に金が回るのは喜ばしい」
「……分かった。3倍の90枚だな」
「ああ、文句を言うヤツがいたらオレに直接、言わせろ。絶対にお前で止めるなよ。これは命令だ」
「なんでそこまで」
「説明はしないが大事なことなんだ。貴族が来るのを厭う者が出るのも、経済が滞るのも」
「分かった。アルドがそこまで言うのならそうなんだろう」
「ノエル、いつも助かる。ありがとう」
「やめてくれ。私は職務を遂行しているだけだ」
「それでもだ」
「……」
そこからは皆と一緒に食事を摂った。なるべく皆でと言うオレの言葉に騎士もメイドも交代で食事を摂る。
そんなオレを見てオリビアが話しかけてきた。
「アルドは変わっていますね」
「嫌だったらすまない。オレはあまり序列というものが好きじゃないんだ」
「嫌じゃありません。普段は気にしなかったメイドや騎士の顔がよく見えます。これは貴重な体験です」
「そう言ってくれると助かる。正直、何か言うとしたらオリビアだと思ってたんだ」
「学園のSクラスにも平民はいるのですよ。そんなミルド公爵家でもあるまいに」
「ミルド公爵?」
「貴族絶対主義の家です。貴族以外は人を人とも思わない扱いをするとか…私やアルドの家とは敵に近い」
「そうか…」
ちなみに食事の席はマールにエアコン魔法を使ってもらった。皆、それだけで笑顔が零れている。
次の日の出発は宿の人間が総動員で見送ってくれた。きっと金貨のおかげだろう。
そこからの旅路も順調だった。
この調子だと夕方より前、昼を過ぎた頃には到着できるかもしれない。
ブルーリングの街が近づいてくるとアシェラの顔がチラついてくる。我ながら重症だ。
なんやかんやで昼食を終えて出発する。
一行が進んでいると、そろそろ範囲ソナーの時間になった。
予定通り範囲ソナーを打つと、1つだけ大きな魔力がある。場所は200メード程先にある巨木のテッペンからだ。
オレは30メード程の巨木の上を凝視する。
ノエルはオレの様子がおかしい事に、すぐに気が付いた。
「どうした?何かあったのか?」
「……」
オレはノエルの言葉が聞こえていたんだとは思う。しかし頭には入ってこなかった。
巨木の下に馬車が移動した瞬間にテッペンから大きな魔力が落ちてくる。
ほんの数秒…大きな魔力が地上に激突する寸前に減速をしてこちらに飛び込んできた。
「アシェラ!」
オレの声が響くと同時に銀髪の少女が飛び出してくる。
思わず馬の上から空間蹴りで飛び出し、空中で抱きしめた。
まだ数ヶ月しか離れていないのに。
抱きしめているアシェラを少しだけ離し、顔をしっかり見る。
アシェラだ。オレのアシェラだ。
嬉しくてもう一度しっかり抱きしめる。
「アルド…そろそろ良いんじゃないでしょうか?」
オリビアの声が辺りに響く。
オレは空中に足場を作り、魔力がゴリゴリ削られるのを気にしないでアシェラを抱きしめていた。
「アルド、嬉しいけど恥ずかしい…」
アシェラの真っ赤になった顔を見て、オレは“やらかした”と心の中で叫ぶのだった。
こうしてオレはブルーリングの街に帰ってきた。
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