525.アオの怒り part1
525.アオの怒り part1
サーペントの主を狙撃する事を決めた次の日。
朝食も食べ終え、これからいよいよ主との戦いに挑もうと言う所。
「じゃあライラ、行って来る。大人しく待ってるんだぞ。カズイさん、ライラを頼みます」
「任せてよ。ライラさんには、絶対 危険な目に合わせないから」
カズイは口を堅く結び、気力を漲らせている。これならライラに危険が及ぶことは無さそうだ。
しかし当のライラは……
「アルド君……絶対に帰ってきて……アルド君がいないと私……それに赤ちゃんも……」
「ライラ、アルドはボクが絶対に守ってみせる! シャロンに誓っても良い」
「アシェラ……絶対、絶対、アルド君を守って……お願い……」
「うん、任せて。皆で直ぐに戻ってくる」
嫁達の絆が深い。ここまでの信頼関係があるのは、やはりオレがアルジャナへ飛ばされた間、お互いに支え合っていたからなのだろう。
しかし、これほどの絆、少し妬けてしまう。
「ライラ、アルとアシェラは私が責任を持って連れ帰るわ。カズイ君、悪いけどライラをお願いね。アル、アシェラ、そろそろ行くわよ。あんな蛇の1匹や2匹、私の「魔王の一撃」で、ミンチに変えてやるんだから!」
「は、はい……母様」「はい、お師匠!」
謎の覇気を漲らせた氷結さんに急かされつつ、オレ達3人は狙撃ポイントの大木を目指したのである。
◇◇◇
狙撃ポイントには特に問題無く到着した。早速 主の姿を窺った所、遠くに見える泉の隣に昨日と同じくサーペントの主がとぐろを巻いて眠っている。
「どうやら主は動いて無いみたいですね」
「ええ。これなら問題無く頭を狙えるわ。見てらっしゃい、死んだ事にも気付かせず天国へ送ってやるんだから」
やっぱり狙いは頭なんですね……まぁ、一番 確実に息の根を止めるには正しい判断なんでしょうが……
スプラッターを思い浮かべて憂鬱な気分に浸っていると、アシェラがオレの袖を引きながら口を開いた。
「アルド、お師匠の魔法の後で魔物を殲滅するなら、なるべく主に近づいておいた方が良い」
「そうだな……ただそれだと、どうやって母様とタイミングを合わせるか……」
氷結さんがこの場所から狙撃するなら、離れているオレ達とどうやって連携を取れば良いのだろう……うーん、困ったぞ。
頭を悩ませていると、氷結さんがドヤ顔で言い放ちやがった。
「そんなの簡単じゃない。以前アンタが王城で暴れた時、ライラ達と離れ離れになっても局所ソナーで連絡をとってたんでしょ?」
「あ、そうでした。なるほど、準備が出来た時点で母様へ局所ソナーを打てば良いんですか」
「アンタが話してくれたんじゃない。本当にアンタって頭が良いのか悪いのか、たまに分からなくなるわね……」
くぅ……氷結さんのくせに! しかし図星である以上、何も言い返せるはずも無く……
結局、少しの時間を使って、母さんとサインを決めたのであった。
決めたのは3つ。局所ソナーを1回は「準備中」。念のため5分間隔で母さんへ打ち続けて、作戦が順調に進んでいる事を知らせるためのものだ。
2回連続は「準備完了」。この局所ソナーを感じたら、速やかに「魔王の一撃」を撃ってもらう。
そして3回は「撤退」。主に見つかった場合や想定外の出来事が起き、作戦を中断して撤退する際に使う事にした。
確かに他の魔物と遭遇して戦闘にでもなれば、間違いなく主に見つかってしまう。
急遽、作戦を中止する可能性は十分にある。
「まぁ、こんな所かしらね。あんまり細かく決めて、間違えでもしたら意味が無いわ。2回は作戦開始。3回は撤退。後は臨機応変に対応しましょ」
「そうですね、分かりました」
「じゃあ、私はここで待ってるわ。2人は待機場所を探してきなさい。それと失敗してもやり直せば良いんだから、絶対に無理はしない事。良いわね?」
「はい、母様」「はい、お師匠」
こうしてオレとアシェラは、母さんを置いて、突入場所の確保に向かったのである。
◇◇◇
母さんの下を離れて30分ほどが経った。
数キロの距離ではあるが、細心の注意を払いながらの道程は、やはり非常に時間がかかっている。
「アルド、あそこはどう?」
「うーん……隠れるには絶好の場所なんだけどな……出来ればもう少し近付けると……」
「今回はマナスポットを奪われるのは計算の内。あんまり欲張ると主に見つかる。それに……これぐらい離れてた方が良いはず」
アシェラの言う事は尤もだ。見つかっても逃げれば良いのは確かだが、主は間違い無く戦闘態勢に入るだろう。
主に警戒されれば、今のように隙を見せず次の作戦は更に難しくなるのは明らかだ。
元々 蛇には、人が持たないピット器官と呼ばれる受容器官があり、温度を視る事が出来る。
オレでは認識できない事象から見つかる可能性もある以上、アシェラの言葉に従うべきなのだろう。
「分かったよ。お前の言う通りあそこに隠れよう」
「うん!」
アシェラが見つけたのは、少し盛り上がった土の隣にある塹壕のような場所だった。
ここに潜めば、向こうからの視界は通らず、体温を感知される事も無いはずだ。
「じゃあ、母様に局所ソナーを打つぞ」
「分かった」
アシェラの返事を聞いた後、母さんへ向けて極細の局所ソナーを2回打つ。これで賽は投げられた。オレ達には待つ事しか出来る事は無い。
おおよそだが、「魔王の一撃」の準備に必要な時間は1分。
そろそろか? そう考えて塹壕から顔を出した所で、主へ向かって赤い線が伸びるのが見えた。
「魔王の一撃」が空気との摩擦で赤熱して赤く光って見えるのか……横から見たのは初めてだけど、恐ろしい速さだ。
どこか呆けつつ赤い線を眺めていると、次の瞬間、腹に響く轟音と吹き飛ばされそうな暴風がやってくる。
「アシェラ! 伏せろ!」
「うん!」
あの魔法……遠目からしか見た事無かったが、ここまで爆風が届くのか? 頭おかしいだろ、この威力……
この塹壕に潜ってなかったら……死にはしないまでも、骨の1本や2本は折れてたんじゃないか?
背中に冷たい物を感じつつ、風が収まったのを確認した後、ゆっくりと顔を出す。
おい……何だコレ。結構な太さの木が折れまくってるじゃねぇか……
「あ、アシェラ、もう大丈夫だと思う……マナスポットを確認するぞ」
「分かった」
アシェラの態度を見るに、この惨状に驚いた様子は無い……もしかして、こうなる事を想定して塹壕で待機しようって言ったのか?
「アシェラ、1つ教えてくれ」
「なに?」
「お前、母様の魔法の威力が分かってて、この穴に隠れようって言ったのか?」
「うん。お師匠の魔法だと、こうなるのは分かってた。だけどアルドは主に近づこうとするから……」
「マジか……」
どうやらオレだけが抜けていたらしい。塹壕じゃなく草むらにでも隠れていたら……今頃 回復魔法のお世話になってた気がする。
危ねぇ! 戦う前にリタイヤする所だったよ!
「アシェラ、助かったよ。ありがとな」
「ううん。夫婦が助け合うのは当たり前」
「じゃあマナスポットを見に行くか」
「うん」
アシェラさん、何て頼りになるんだ。惚れてまう……いや、惚れ直してまうやろ!
普段はポンコツな所もあるのだが、こと戦闘に関する物には抜群のセンスを発揮する。
資質だけなら勇者枠なんだよなぁ……オレが勝ってるのって、コンデンスレイの殲滅力ぐらいじゃないか?
ベレットに言って、地獄の修行をちょっとだけ厳しくしてもらうのを誓ったのである。
◇◇◇
マナスポットの泉へやってきたのだが……何コレ……
サーペントの主は頭どころか半身が無くなっており、爆散したのが分かる。恐ろしいのは、マナスポットの泉が酷い事になっているのだ。
この惨状は……泉の水など残っておらず、爆弾でも落ちたかのように原型を留めてはいない。
しかも、主の肉片が辺り一面に散らばっており、3流映画の様相を醸し出している。
更に恐ろしいのは、主の残った体の断面から、真っ赤な血が沸き出し小さな池を作り始めているのだ。
これ絶対マナスポット壊れただろ! しかもマナスポットの泉じゃ無くて、主の血の泉とか! 最大の冒涜じゃねぇか!
こんな所にいたら間違いなく呪われてしまう。一刻も早く立ち去りたい!
しかし、そんな事出来るわけも無く……怒られる覚悟を決め、アオを呼び出したのであった。
「何だい? 急に呼び出して………………何だこれ! うわ! マナスポットが壊れかけてるじゃないか! アルド、魔瘴石を出して!」
「え? うそ……マナスポット壊れて無いの?」
「良いから! 早く魔瘴石を!」
「わ、分かった。幾ついるんだ?」
「そんな事、僕に分かるわけないだろ! あるだけ全部!」
「あ、ああ……直ぐに出す」
「それと、アルドの指輪をそこの血溜まりに入れて! マナスポットを僕の支配下におかないと干渉出来ない!」
マジで? お前、本気で言ってるのか? この血溜まりに右手を突っ込むだと……嘘だと言ってよ、〇ーニー!
「早くって言ってるだろ! 急速にマナが散ってるんだ! 早く手を!」
くぅぅぅぅぅ……ここで「嫌だ」なんて言おう物なら、アオに嚙みつかれそうだ。ここまで焦ったコイツを見るのは初めてなくらいだし……
何とか逃げる方法を考えたのだが、何も良い案は出ず……結局、今も主の血が流れ込んでいる血溜まりに
、手を突っ込んだのであった。
血溜まりに薄っすらと青い光が浮かび上がる……しかしその光は、過去に見たスライムのマナスポットと同様に弱々しい物だった。
「よし! 後は任せて。でもアルド、どうしてマナスポットがこんな事になったのか、後で理由を聞かせてもらうからね!」
「ああ、分かったよ。それとお前が起きてくるまで、魔瘴石は全部出しておく。それで良いよな?」
アオは不満そうな顔のまま小さく頷いた後、血溜まりの上で丸くなったのであった。
アルドの異世界転生のコミカライズ1巻が2/25に発売されます(>_<)
作者は亜城シロ先生。現役の高校生でジャンプ新人賞を取った天才さんです。
是非、手に取って貰えると嬉しいです(*´Д`*)
オーバーラップノベルズから3巻も発売中なので、そちらも是非 お願いします(●´ω`●)




