505.迷宮探索 弐 part1
505.迷宮探索 弐 part1
諸々を相談した結果、王の希望通り「ゴブリンの迷宮」を攻略する事を決めた。
そして「ゴブリンの迷宮」を踏破した暁には、予定通り王都のマナスポットを解放する事になりそうだ。
しかし王都のマナスポットを解放……こんなに簡単に決めて良いのだろうか?
こっちは何時でも好きなタイミングで飛べるわけで……言わば獣人族の王都は、喉元にナイフを突きつけられてる形になってしまう。
うーん……まぁ、向こうが良いと言うなら、コチラに不満は無いが……何ともモニョる話である。
因みにもう1つの迷宮は喫緊の問題では無いらしい。数年の内に踏破してもらえば問題無いそうだ。
どうやら街から少し距離があるらしく、将来 街道を通す際に邪魔になるのだとか。
恐らく以前 踏破した翼の迷宮のような感じなのかもしれない。
「じゃあ早速、下見で2~3日潜ってみよう。迷宮の感じや本当に休息がとれないのか。細かい所を肌で感じておきたい」
「そうだな。いきなりぶっつけ本番で迷宮主は流石にキツイぜ。ネロ、気合を入れろよ。足手纏いになるとしたらオレ達なんだからな」
「分かったぞ。それより2回目の迷宮探索なんだぞ! 凄く楽しみなんだぞ」
「ハハハ……レッサードラゴンの時は強制だったからね。今回は楽しく潜れそうかな。因みに罠って何があるの? いきなり即死するような物は無いよね?」
「一応、罠の類は確認されていないみたいですね。あっても僕達のパーティは、全員が回復魔法を使えますし、たぶん大丈夫だと思います」
「たぶんって……本当に大丈夫なの?」
「うーん……罠で本当に怖いのは転移罠なんです。迷宮の中で1人飛ばされて、自分がどこにいるかも分からなくなりますから……念のため、そこはアシェラに任せようと思います。魔力視の魔眼なら、転移罠は光って見えるみたいなので」
「そっか、だったら安心かな。僕も邪魔にだけはならないよう頑張るよ」
これで方針は決まった。後は実際に潜ってみてからだ。
この日は荷物の再確認をし、足りない物はメイドに手配してもらって1日が過ぎていった。
◇◇◇
次の日の朝の事。
「じゃあ、行ってくる」
「本当にお前等だけで行くのかよ……今回は様子見なんだろ? だったらオレも迷宮を見てぇ。連れってくれ」
こう話すのはドーガである。コイツは相変わらず何も考えていない脳筋のようだ。
「お前はこの国の王子だろ? 迷宮探索なんて許される立場じゃ無いだろう……」
「それならお前もだろうが。オレなんかよりよっぽど世界に必要な男だ。だから、な? ちょっとだけ……ちょっとだけだから、頼む、アルド」
コイツは本当に……それに何だよ、ちょっとだけって。
お前は必死に若い女の子を口説くオッサンか?
「ハァ……使徒は戦って世界を救う存在だ。お前とは立場が違うだろ。それにオレ達は全員が空を駆ける。迷宮にゴブリンが溢れてるって言うなら、恐らく空中にしか安全地帯は無いかもしれない。そんな場所に連れては行けない」
ここまで言って、やっとドーガは口を閉ざしてくれた。
本当に頼みますよ、王子様。もう少し考えてから物を話してくれ。
こうしてドーガから恨みがましい目を向けられながら、オレ達は「ゴブリンの迷宮」を目指したのである。
◇◇◇
馬車に揺られる事、1時間ほど。ゆっくりと馬車が止まり、護衛の騎士に声をかけられた。
「ここからは徒歩になります。申し訳ありませんが、降りて頂けますか」
「分かりました」
どうやらここからは徒歩らしい。まぁ、迷宮の入口が街道沿いにあるわけ無いか。
「ここからは我等が先導します。恐らく2時間ほどで到着できるかと」
「はい。でもこんなに沢山 護衛は必要ないと思うのですが……」
「いえ、絶対に無傷で送り届けるよう、厳命されておりますので。それに我等は冒険者と違い、組織的に動きます故……あまり人数が少ないと、行動に支障が出るのです」
「なるほど。そう言う事であれば……お任せします」
こう話す騎士達の人数は3個小隊の15名である。ここからは2個小隊がオレ達を迷宮まで送ってくれるようだ。
そしてオレ達が出て来るまで、入口で待つと言う……そこまでしなくても……思わず言葉が出そうになったが、彼等も仕事だ。
これ以上、オレが何かを言うべきでは無いのだろう。
因みに、小隊の1つはここで馬車と馬の護衛として残るのだとか。
「では行きましょうか」
「はい、先導、よろしくお願いします」
こうして特に問題が起こる事も無く、昼前には迷宮の入口に到着できたのであった。
◇◇◇
騎士へ礼を言い「2~3日で戻る」とだけ伝え、早速 迷宮へ足を踏み入れた。
「おいおい、何だこりゃ。休む場所どころか、隊列もまともに組めねぇぞ」
迷宮は入って直ぐ広場になっており、嫌になるほどのゴブリンに埋め尽くされている。
「先ずは場所の確保だ。ルイス、文句を言ってないで指示を!」
「分かった。全員密集! カズイさんとライラの後衛を中心に、残りは背中合わせになって目の前のゴブリンに対応しろ! 隊列はその後に改めて組む! 先ずは殲滅戦だ!」
このパーティで後衛はカズイとライラの2人。4人で壁になるような形を取り、目の前のゴブリンを蹂躙していく。
「カズイさんとライラは遠距離攻撃を持つ敵を優先。メイジやアーチャーだ。見落とすなよ」
「分かったよ」「はい……」
戦況が変わる毎にルイスの指示が飛び、30分ほどが経った頃、やっと目の前の敵を殲滅し終わる事が出来た。
「ふぅ……取り敢えず休憩するぞ。各自、最低限の警戒は解くなよ。特にネロ、お前の鼻はオレ達とは性能が違う。頼りにしてるぜ」
「分かったんだぞ」
なるべく視界が開けた場所に陣取って、それぞれが思い思いに腰を降ろす。
「しかし、いきなりこれだけの群れとか……確かに騎士達じゃあ、どれだけいても対処できないだろうな」
「そうだな。この迷宮は洞窟形だけあって、人数を入れての包囲殲滅は無理だろうし……どうしても真正面からの消耗戦になる。ジリジリと削り合って、最終的には泥仕合が精々だろうな」
「こうなると恐らく最適解は、空を駆けて雑魚は無視。一直線に迷宮主を狙うのが良いんだろうけど……」
「問題は休憩場所か……」
「ああ。この迷宮は出来て30年って聞いてる。まだ若い迷宮って事で、そう深くは無いだろうが……流石に休息も無しに迷宮主へ挑むのは無謀すぎる」
「だな。だったら安全に休める場所を探すのを、今回の目標にするのが良いのかもな」
「分かった。それで行こう」
ルイスと話して方針は決まった。
しかし本当に休憩できる場所などあるのだろうか……一抹の不安を抱きながら、オレ達は奥へと進んで行くのだった。
◇◇◇
迷宮探索を始めて数時間が経った頃。入口からずっと狭い通路が続いていたのだが、目の前には大きな広場が広がっている。
「ちょっと隠れるぞ。見つかるとマズイ」
ルイスの言葉を聞き、全員が素早く岩の影へと身を翻す。
「凄い数のゴブリンだな……40や50じゃ効かないんじゃないか?」
「ああ。ざっと見ただけでも100はいると思う。当然、上位種もいるだろうな」
「アルド、あの程度ならボクが1人で殲滅してくる」
「いや待ってくれ。出来れば……オレにやらせてくれないか? ゴブリン程度じゃ意味無いかもしれないが……自分をギリギリの状態に追い込んでどうなるかを確かめたいんだ」
いきなりの言葉に、全員が困った顔でオレを見つめている。きっと本当にやらせて良いのかを悩んでいるのだろう。
ここは我を通すためにも、努めて明るく口を開いた。
「危なくなったら助けてくれるんだろ? それに何時までもこんな状態じゃ、世界なんて救えるわけ無いんだ。助けると思って、我儘を許してくれないか?」
眉間に皺を寄せながら、ルイスは諦めたように言葉を返してきた。
「確かにお前の言う通りかもな……分かったぜ。その代わり、危ないと思ったら絶対に逃げろ。それが条件だ。良いな?」
「また逃げるのか……分かったよ、約束する」
「じゃあ決まりだ。他の者はこの場で待機。基本、何があっても手を出すのは禁止だ。但し、本当に危ないと思った時には、各自 自分の判断で飛び込め。アルド、手を出されたくなきゃ、そう思わせるような戦い方をしてこい」
「頑張ってみるよ。じゃあ、行ってくる!」
夢の中でコボルトの主を倒した後、グレートフェンリル王都までの道中で何度か戦闘は行ったが、これだけ大規模なのは初めてだ。
今のオレがどこまで戦えるのか……相手は魔物の中でも最弱を誇るゴブリン。リハビリには丁度良い。
「ゴブども、オレのために死んでくれ!」
かなりゲスい事を口走りながら、オレはゴブリンの群れへ1人突っ込んだのである。
先ずは狼煙代わりに、でかい花火を上げさせてもらう。両腕に魔力盾を出し、リアクティブアーマーを起動した。
バーニアの勢いのままゴブリンの群れへ突っ込むと、大きな爆発が2度 鳴り響いてオレの周りは不自然な空間が広がっている。
ゴブリンにしてみれば、群れの端でいきなり爆発が起きたわけで、意味が分からないのだろう。コチラを呆然と見つめるだけで、襲ってくる様子は無い。
オレはと言うと、心配していた恐怖心が湧いてくる事も無く、至って平常心である。
「これなら……」
呪いが解けた事で恐怖を感じなくなったのか? いや、チビさんがアイツを倒す前に、オレの心は折れていたはずだ……でも……やっぱり……
オレの中を様々な思いが駆け巡るも、今は鉄火場だ。
考えるのは後で良い。今は目の前に集中しろ、アルド!
自分で自分に言い聞かせ、腹にチカラを入れ直した。
「行く!」
戦闘に意識を集中させるため、敢えて言葉を口に出し、未だに呆然としているゴブリン達へバーニアを吹かして突っ込んでいく。
お前等、ボーっとしてる暇があるのか? 悪いが本気で攻めさせてもらう。
すれ違いざまに短剣を薙げば、後ろで幾つものゴブリンの首が落ちていく。
群れの数が6割を切った所で、大きな声が響き渡った。
「ギャギャ、ギィィ!」
声の主は恐らく上位種。恐らくこの群れのリーダーなのだろう。ゴブリン達の浮ついた空気が驚くべき速さで引き締まって行く。
「ゴブリンメイジか……悪いがルイスに圧倒しろって言われてるんだ。先ずは司令塔を潰させてもらう!」
瞬時にウィンドバレットを10個纏い、近くのゴブリンを蹂躙しつつも、遠くにいるメイジやアーチャーへ撃ち込んでやった。
指揮を執るのに集中していたのだろう。メイジやアーチャーは、魔法に気付く事無く頭を弾けさせていく。
そうして15分が過ぎた頃、あれだけいたゴブリンの姿など何処にも無く、この場に立っている者はオレ1人だけだ。
辺りには無数の躯が転がっており、血と内臓の匂いが充満している。
う゛っ……オレにグロ耐性は無いのに……辺り一面、地の海だ。
放っておけば、半日もしない内に迷宮に呑まれるのだろうが、ここでそんな長居をしたくない。
「アルド、終わったな……しかし、これだけ戦えて調子が悪いとか……オレは何を言って良いのか分からねぇぜ」
何時の間にかやってきたルイスは呆れた口調で話しているが、この程度なら使徒になる前から出来たわけで……
どう答えても更に呆れられそうな空気を感じつつ、肩を竦めて返しておいた。
「さてと……今回は休憩場所の確保だからな。ちょっと匂いは酷いが、ここで野営をしよう。ゴブを殲滅した後、どれぐらいの時間 安全なのか確かめたい」
え? このスプラッターの中で野営するの? マジ?
結局、ルイスの言うこ事は尤もであり、喉まで出かかった言葉を飲み込むしか出来なかったのである。




