504.獣人族 弐 part3
504.獣人族 弐 part3
「「「「「すみませんでした!!」」」」」
オレ達の周りでは沢山の騎士が頭を上げて謝っている。
これは一体どういう状況なのか? 簡単に言うと、カズイを覚えていた騎士が事の詳細を確認した所、誤認逮捕だと言うのが判明したのだ。
「頭を上げてください。先触れも出さなかった、僕達にも非はありますから」
「本当にすみせんでした……まさかドーガ殿下の知己だったとは……確認もせず牢に放り込むなど、処分されても文句は言えません。ですが、この件は小隊長である私に責任があります。勝手を言いますが、部下達には寛大な処置をお願いしたく……」
この場で一番階級が高いのだろう。30歳ほどの小隊長が必死に頭を下げている。
「ですから頭を上げてください。コチラに今回の件を大きくするつもりはありません。皆さん、職務を忠実に実行しただけなんですよね? であれば、これは悲しい事故です。皆さんの実直な態度に関心したほとです。お願いですから、笑って僕達を送ってもらえませんか?」
小隊長は呆けた顔でオレを見つめている。
おい、何とか言えよ。オレがアホみたいじゃないか!
少しの時間が過ぎ、結局、全員が禍根を残す事無く笑顔でこの場はお開きになったのであった。
◇◇◇
王宮までの道中、唐突にルイスが口を開く。
「しかし、お前は相変わらずだな」
「何がだよ……」
「普通は文句の一つも言う所だろうが。それを笑顔で送ってくれとか……」
そう話すルイスは随分 楽しそうだ。
「いや、あの人達に落ち度は無いだろう? どっちかと言えば、先触れすら出さなかったこっちが悪い」
「そうだな。ただ、そう言えるヤツがどれだけいるか……お前はやっぱり世界を救う器だぜ」
いきなりルイスは何を? どう見たら、オレの器が救世主だと言うのか。
ネロさん、カズイさん、アナタ達まで頷かないでください。
お尻がムズムズするような居心地の悪さの中を歩いていると、直に王宮の正門へ到着した。
「さてと……また捕まるなんて嫌だからな。どうやって話しかけるべきか……」
ここでまた「王子に会いに来た」と言って良いのだろか? また牢屋にぶちこまれるような事になれば、オレは牢屋マイスターになってしまう。
正門の前に集まり、ヒソヒソと内緒話をする姿は相当怪しかったのだろう。
焦れた騎士の1人がゆっくりとコチラにやってくる。
「あ、すみません……僕達は怪しい者では無くてですね……どう言ったら良いか……」
「アナタ様方はドーガ殿下のお客様ですよね? 門番から報告は受けておりますので……」
「あ、そうなんですか? てっきり、また牢に放り込まれるかと……」
「あー、ごほん……で、出来ればその件は御内密に……」
「あ、はい。僕達は何も言いませんし、何も無かった。これで良いですか?」
「ご配慮、痛み入ります……ではコチラへ。それと武器の類は預からせて頂きます。お帰りの際にお返ししますので、ご容赦下さい」
最初から躓いている気がしないでも無いが、何とかドーガの下を訪ねる事が出来たのであった。
◇◇◇
王宮に入って直ぐ、豪華な客間へと通された。メイドの話では、ここで暫く時間を潰してほしいとの事だ。
うーん……こんな立派な部屋、落ち着かないんですが……このシーツ汚したら神銀貨が飛びそうな気がする。
そうして2時間ほど待たされた後、通された部屋は……
「おう、久しぶりだな、アルド」
「ドーガ殿下もご健勝のようで、嬉しく思います」
「おい、何だそれは。前みたいに話せよ。オレだけバカみてぇだろ」
いや、そうは言うが……お前、ここが何処だか分かってるのか? 謁見の間だぞ? 隣を見ろよ、王が困った顔をしてるぞ。
「ドーガ、少し黙れ。アルド様、ここには全てを知っている者しかおりません。どうかお立ちください。使徒様を跪かせたなど、始祖ギギ様も許されないでしょう」
「分かりました。失礼します」
アシェラ達はそのままで、オレだけが真っ直ぐに立ち、横柄に見えず卑屈にもならないよう心掛けて、口上を述べ始めた。
「お久しぶりです、陛下。この度は我等と同盟を結んで頂けると聞き、急ぎ馳せ参じました。しかも「新しい種族」へ様々な支援も頂けるなど、感謝の言葉も御座いません。このご恩は我が子孫へ末代まで語り継がせる事と致しましょう。我が主でありもう1人の使徒である、エルファス=フォン=ブルーリング様に代わって御礼申し上げます。ありがとうございます」
王は満足そうに数度頷いた後、その場で立ち上がりゆっくりと近づいて来る。
そしてオレの前までやったきた所で、辺りに響き渡るよう威厳ある声でとびきりの内容を宣言した。
「グレートフェンリル王として今ここに宣言する。我等は「新しい種族」と同盟を結ぶと! 共に手を取り合い、輝かしい未来を掴み取らん事を。獣人族と新しい種族に幸あれ!」
次の瞬間、歓声が上がる。恐らくこの場にいるのは国の重鎮だけなのだろう、少数ではあるものの各々が手を叩き、祝福の声を上げていた。
え? いきなり同盟締結なの? うそ?
お前等、いつも大雑把だよな……普通は細かい条件を調整して、最後に調印じゃないの?
先ずは顔見せだけのつもりだったのに、何でこうなった……戸惑い99%の愚痴を頭の中で呟くのだった。
少しの時間が経ち、場が収まった所で王が更に口を開く。
「細かい諸々については後で決める事と致しましょう。先ずは旅の疲れを癒してください」
「か、格別な配慮、誠にありがとうございます。相談したい事もありますので、取り敢えずお言葉に甘えさせて頂きます」
こうしてオレは逃げるように謁見の間を後にしたのである。
◇◇◇
やたら豪華な客間へ戻ったと同時に、先ほどの事を聞いてみた。
「お、おい、あれって、いきなり同盟締結って事なのか? 迷宮の踏破はどうなったんだ?」
「ちょっと待て。オレは獣人語はカタコトだからな。念のため、最初から教えてもらっても良いか?」
「ああ、いきなり謁見の間に通されてから………………」
アシェラとライラも獣人語が話せない。自分の中も整理するつもりで、先ほどの一連を説明していった。
「………………って事なんだ。いきなりの事でオレも戸惑ってる。どう考えれば良いんだ?」
「うーん……アイツ等、相変わらずだな……適当って言うか……大雑把って言うか……」
ルイスが眉尻を下げ溜息を吐く中、唐突に部屋の扉が開けられドーガが入ってきやがった。
「久しぶりだな、お前等。元気にしてたみてぇだな」
お前は……部屋に入る時にはノックをしろと! 何度言ったら分かるんだ!
「……久しぶりだ、ドーガ。お前も相変わらずだな」
そこからは久しぶりの再会を喜んでいたのだが、少々面白い話を聞かせてもらう事ができた。
何の話? そう思うだろうが、いきなりの同盟締結の件だ。
どうも同盟に後ろ向きな諸侯が何人かいるらしく、既成事実を作って強引に進めるため、ワザとあの場であのような発言をしたのだとか。
「やっぱり他国の争いに首を突っ込みたくねぇジジイ共が一定数いやがる。気持ちは分かるが、これは世界の危機だろ? グレートフェンリルに引き籠ってて良い話じゃねぇ」
「そう言ってもらえると助かる。ただ良いのか? 「新しい種族」の国造りは、救世主としての件とは本質的に別の話だ。オレが言うのは何だが、反対する気持ちも分かるんだ……」
「お前は以前 言ったよな? 子孫が蔑ろにされるなら世界を救う大義が無くなるって。それは親父もオレも諸侯だって納得してる。だったら「新しい種族」を支援するしか無いだろ? お前が「止めた」って言った瞬間、世界の終わりが決まるんだからよ」
これは非常に言葉に詰まる話だ。正直に、「後1~2個マナスポットを解放すれば、世界は壊れませんよー」など言おう物なら、同盟は白紙になるのだろう。
それに妖精族の件もそう……新しい種族のチカラも伏せて、都合の良い情報だけを流しているのだから。
オレの中の良心がチクチクと鈍い痛みを訴えてくる。
「何シケタ面してるんだ。その顔は申し訳ないとでも思ってやがるんだろ? 安心しろ。こっちもタダで提供するわけじゃねぇ。2つの迷宮踏破と何かあった場合の伝手が手に入るんだ。ドラゴンスレイヤーのチカラを当てに出来るんなら、多少の融通ぐらい大した事ねぇよ」
「ハハ……そんな大したチカラじゃ無いけどな……分かったよ、この国に危機が訪れた際には、オレの全力を持って助ける。オレの家族に誓うよ」
「それで十分だ。じゃあ早速行くぞ。親父と宰相が執務室で待ってるからな」
おい、だから何で、いつもそんな急なんだと……獣人族の特性なのか? またまた少しの愚痴を心の中で吐いたのであった。
◇◇◇
執務室にはオレとカズイ、アシェラの3人でやってきた。アシェラはオレの護衛、カズイはアシェラの通訳である。
執務室に到着したと同時に、ドーガはノックもせず乱暴に扉を開けて当たり前のように話し始めた。
「親父、連れてきたぜ」
「ドーガ……いつもノックをしろと言ってるだろうが……全く……アルド君、良く来てくれた。先ほどは、いきなり同盟の件を持ち出してすまなかった」
「いえ、ドーガから話は聞きました。色々とご苦労をおかけしているようで、申し訳ありません」
「先ずは座ってほしい。その件で幾つか頼み事があるんだ」
「はい、失礼します」
オレだけが席に付き、アシェラとカズイはオレの後ろで立っている。一応、非公式とは言え王との面会で、護衛役として同席している以上、座るなど出来るはずもない。
いっそ妻としてなら座っても問題無いのだろうが……思考が逸れた。
「使徒としての使命で忙しいだろうに……良く来てくれた。本当にありがとう」
「いえ、こちらこそ、ありがとうございます。今回の同盟の件、父も弟も大変喜んでいます」
「そうか、もう1人の使徒様も喜んでおられるのか……」
王は嬉しそうに独り言を呟いた後、今回の迷宮探索についての詳しい内容を話していった。
「………………とう言う事だ。この国には幾つか邪魔な迷宮があるが、その中でも2つ。ここ王都から1日の場所にある「ゴブリンの迷宮」とクル領にある「獣の迷宮」は、何人もの冒険者が挑んだが、帰ってきた者は極僅か……使徒様を危険に晒す無礼は重々承知だが、何とか踏破してもらえないだろうか?」
「迷宮に挑むのは構いませんが「ゴブリンの迷宮」? ゴブリン程度どうとでもなるのでは?」
王と宰相はお互いを困った顔で見つめた後、言い難そうに話し始めた。
「確かに「ゴブリンの迷宮」にはゴブリン以外の魔物は出てこない。アルド君の言う通りではあるのだが……問題は数。普通の迷宮とは比べ物にならない量のゴブリンが住みついている。踏み入った者は休息も取れず、徐々に疲弊して最後は飲み込まれる」
「なるほど……物量に特化した迷宮なのですか……」
「更にこれは噂の域を出ないが、迷宮主はゴブリンエンペラーだと言われている。迷宮が現れて30年、王都から近すぎ素材もゴブリンの物だけと言う事で、何度も冒険者を送ったが、踏破に成功する事は無かった」
ゴブリンの迷宮……雑魚殲滅ならコンデンスレイが浮かんだが、迷宮内で撃てるはずも無い。
「話は分かりました。因みにどちらがより優先なんでしょう? 流石に2つ同時は現実的では無いので」
「出来るなら、「ゴブリンの迷宮」を急いでもらいたい。王都に近い事と、絶えずゴブリンが溢れて間引き役で騎士の被害がかなりの物になっている」
「分かりました。一度 皆と相談してから正式に返事をさせてください」
王と宰相は神妙な顔で頭を下げたのであった。




