503.獣人族 弐 part2
503.獣人族 弐 part2
オレ達は交換条件を実施するため、グレートフェンリルにある狗神の森へ飛んできた。
メンバーはオレ、アシェラ、ライラ、ルイス、ネロ、カズイの6人である。
「先ずはググの街へ顔を出すんだろ? 王都まではかなりあるからな。急ごうぜ」
こう話すのはルイスだ。ティリシアでの諸々を放っての旅とあって、時間が惜しいのだろう。
「ああ、そうだな、急ごう。でも今回はすまなかった。本当はなるべく早くティリシアに戻らないといけないんだろ?」
「ん? あー、まぁな。でも気にするな。タメイさんだったか? カナリス卿にはブルーリングから使者を出してもらってる。2ヶ月は猶予があるはずだ」
「オレがこんなだから……本当にスマン」
「だから気にするなって。オレ達も「呪い」を受けてるかもしれないんだ。お前の事が無くても、行かなきゃいけないのは同じだ。そうだよな? ネロ、カズイさん」
「ルイスの言う通りなんだぞ。アルドは気にし過ぎだぞ」
「うんうん。アルドの手助けが僕達の仕事なんだから、気にしなくて大丈夫だと思うよ」
3人は笑いながら話しているが、そんなに簡単な話じゃ無いだろうに……改めて心の中で頭を下げておくのだった。
◇◇◇
無事ググの街でギリクへの挨拶を済ませ、王都へ向かっている最中の事。
ルイスとカズイがオレを肴にして、会話に華を咲かしていた。
「王都までは後3日って所ですか。一体、何処の迷宮を踏破させたいのやら……ギリク殿が何か知ってれば話が早かったんですけどねぇ」
「そうだね。それに2つも踏破しないといけないんでしょ? それだと、かなりの時間がかかるんじゃない?」
「ヨシュア殿の話では、先ずは喫緊の1ヶ所で話を進めてるみたいですね。向こうも流石に一度に2ヶ所なんて無茶は言わなかったみたいです。1つ踏破で王都のマナスポットを解放して、2つ目で正式な同盟の調印を行うんだとか」
「なるほど。僕には貴族のアレコレなんて分からないから、それが普通なんだろうね」
「普通……うーん、アルドが関わった時点で普通じゃないと思いますよ?」
「それはそうか。確かにアルドは御使い様だしね」
君達、オレを規格外のように話してますが、アナタ達も大概だと思いますよ?
だって、空を飛んでAランクレベルの使い手とか……カズイさんなら、ミルド領のヤルゴ程度、七面鳥撃ち出来るんじゃないですかね?
迷宮探索は期日を切られている訳でもない。こうして、それぞれが雑談に興じながら、気楽に歩いていたのである。
◇◇◇
ポカポカとした日差しの中、ノンビリ歩いているのだが、こんなに長閑で良いのだろうか?
更にネロなど、街道を1人 先に走っていき、道端の草花や虫を見て遊んでいるのだ。
「ルイスー! この虫面白いぞ! コレなんだぞ!」
「は? 虫? おまっ、これカメムシじゃねぇか! 捨てろ! そんでオレに近づくな!」
2人はカズイも巻き込んで、ギャーギャーと楽しそうに笑っている。
「ふふ……こんな旅もたまには良いのかもな……」
「うん。ノンビリ外国を歩くなんて初めて。凄く贅沢な感じがする」
「外国を旅か……昔、本で読んだ事があるんだ。どこかの土地では、結婚すると少し贅沢な旅をして見分を広める風習があるらしい。所謂、新婚旅行ってヤツだな」
「新婚旅行……うん。これはボク達の新婚旅行!」
「新婚旅行! 凄く良い!」
「オリビアも来られれば良かったんだけどな……」
「次はオリビアも連れて来れば良い。シャロンとレオンも」
「で、出来れば次の旅行までに、私も赤ちゃんが欲しい……」
「そうだな。次は皆で来よう。ライラ、焦らなくても大丈夫だ。子供は授かりものだからな。ノンビリ待とう」
「うん……」
どうやらライラは、自分だけ子供がいない事にプレッシャーを感じているようだ。
しかし、夜のプロレスはアシェラとライラの配慮もあり、多目にこなしているんだが……うーん、これ以上、どうすれば良いんだろう。
いっそ毎日、体温でも測らせるか? いや、体温が分かっても、オレに排卵日なんて分かるわけ無いし……困ったなぁ。
こうして、ゆっくりした旅を続けながら、オレ達は王都を目指したのであった。
因みに、暇を見つけて修行はしてましたよ? ルイスとネロから大剣と片手剣の立ち回りを習い、アシェラとは模擬戦を行っている。
徐々に恐怖心が減っているのは、ジョーの言っていた通り、1歩ずつでも前に進んでいるからなんだろうか。
答は未だに出ないが、間違っていないとオレの心が囁いてくる。
迷宮探索までに何とかなれば良いんだが……そう願いながらも、難しいだろうと感じていたのだった。
◇◇◇
ググの街を出て数日。少し遅いペースではあるものの、王都へと辿り着いた。
「ふぅ……これでノンビリした旅も終いか。少し名残惜しいな……」
「そうだな。いつもこんな旅なら良いんだけどな」
「違いない。おっとそろそろオレ達の番だ。サッサと門番に要件を話して、王子へ面会を頼むとするか」
「ああ、そうだな」
オレ達の順番が回ってきた所で、門番へ「ドーガ王子から呼ばれてきた」と話したのだが、何故か沢山の騎士に囲まれている。
何故だ! 至って平和的に話したのに!
騎士達の言い分はこうだ。
曰く「殿下が直接呼び出すほどの者が、歩いて門など通るはずが無いだろうが!」「お前等の身なり……冒険者風情が王子へ面会? バカなのか?」「人族に魔族にエルフ……獣人族もいるようだが、怪しすぎる……」「先触れも無しに王族へ面会できるわけが無いだろうが。バカにしてるのか?」
騎士達の言い分は最もであり、オレ達は他にも王都へ入ろうと待っている者からアホを見る目で見られている。
「あー、言われてみれば、確かにそうですね……では王子への取次は結構ですので、王都へ入る手続きだけお願いします」
そう声をかけたものの、周りの騎士は剣呑な空気を出しており、「はい、分かりました」となるはずも無かった。
「おい、アルド……ここは一旦引こう……流石にこのまま王都へは入れてくれ無さそうだ……」
「そうだな……分かった」
取り敢えずいきなりの言葉に謝罪し、踵を返そうとしたのだが……遅かったみたいだ。
「待て……このまま行かすと思うか? 王家への反逆の容疑で身柄を拘束させてもらう」
騎士達は一斉に剣を抜き、必要ならば殺す事にも躊躇いは無さそうだ。
軽く制圧しても良いのだが、こちらは同盟を結びにやって来た使者である。
ここで揉め事を起こすなど出来るはずもなく……憐れ、オレ達は全員お縄に付いてしまったのであった。
暴れる事無く神妙に従ったためか、オレ達は全員、同じ牢に入れられている。
「おい……また牢屋かよ……これで2度目だぜ……」
「オレはフォスタークを入れると3度目だよ……慣れて来た自分が嫌になる……」
アナタ達、何で可愛そうな者を見る目で見てるんですかね?
「ハァ……しかし、この状況は如何にもマズイ。オレ達にとっても、牢へ放り込んだ門番達にとってもだ」
「だな……秘密裡の事とは言え、同盟先の使者を牢へ放り込んだなんてバレたら……何らかの罰は間違いないだろうぜ」
「こんな事で禍根は残したくない。あの人達は職務を忠実に遂行しただけなんだから……」
「そうは言ってもなぁ……力尽くで逃げ出すのは難しく無いだろうが、今度は賊を逃がした責任を取らされるぞ」
「そうだよなぁ……やっぱりギリク殿に送ってもらうべきだったか……参ったなぁ」
「それはもう言うな。ノンビリ歩いていくのは全員が賛成したんだ。今更言ってもしょうがない。それより、この事態をどうやって切り抜けるか……」
「事を公に出来ない以上、こっちの身分は話せない……更に力尽くもダメ。これ詰んだんじゃないか?」
同じ思いだったのだろう、何故か全員がオレから視線を逸らしやがった。
うぉぉぉぉい! オレにどうしろと?
そんなある種 煮詰まった空気の中、カズイが遠慮がちに口を開く。
「あ、あのー」
「カズイさん、何か良い案が?」
「え? あ、いや、良い案かどうかは分からないけど……以前、王子の命令で模擬戦をやったでしょ? 誰か1人くらい、僕達の顔を覚えてないかな?」
「あー、確かにルイスとネロとカズイさんには、模擬戦の申し込みが殺到してましたね……僕には誰も寄ってきませんでしたが……あれから2年弱……覚えてる者がいてもおかしく無いのか……」
「門番も騎士の仕事の1つだ。オレ達を覚えている者がいるなら、王子と懇意にしてたのも知ってるはずだぜ」
「他にやれる事が無い以上、やってみるか……食事の配膳の際、さりげなく声をかけよう。3人共獣人語は……」
「オレはまだ完璧じゃねぇな。カタコトならなんとかって所だ」
「じゃあ、ルイスとアシェラとライラは静かにしててくれ。オレとネロ、カズイさんで話しかける」
「分かったぜ」
こうして、何とも消極的な作戦が始まったのである。
しかし、ねぇねぇオレの事 知ってる? と聞かないといけないのか……これじゃあ程度の悪いナンパと変わらない……しかもむさくるしいオッサン相手にとか……泣ける。
◇◇◇
牢に入れられて丸1日が過ぎた。この間はリュックに入っている保存食を食べ、水は魔法で出している。
更に眠る際には交代で見張りを立てて、警戒を解いてはいない。
身の危険を感じる事は無いのだが、ナンパ大作戦の方は全く進展が無い……執拗に話しかけるオレ達を、騎士は鬱陶しがっているのだ。
「ハァ……最悪はオレ1人で抜け出してドーガへ泣きつくかな……」
「そうだな……正直、こんな事をしてる時間が勿体ない。今日の夜まで待って、無理そうならその手でいくか」
「分かった」
騎士達は忙しいのか、思ったよりやってくる者の数は少ない。
ぶっちゃけ、食事と最低限の世話以外は完全放置されている。
「これで良いのか騎士団……映画の大脱走なら余裕で壁に抜け穴を開けてるぞ……」
オレの独り言が響く中、唐突に1人の騎士が声をかけてきた。
「おい、お前。違う、お前だ。そこのエルフ、顔を見せろ」
「え? ぼ、僕ですか?」
「ああ、お前だ」
騎士はカズイの顔を見ては首を傾げ、それを何度か繰り返した後、唐突に口を開いた。
「お前……以前、ウチの騎士団に、殴り込みをかけなかったか?」
「え? な、殴り込みなんてかけてません! 2年ほど前に模擬戦を何度かしただけで……」
「やっぱりお前だったか。人族とエルフ、魔族と獣人族が殿下を狙って捕まったって聞いてな。顔を見にきた」
「って事は、2年前を覚えているんですか?」
「ああ。お前は覚えてないだろうが、見事に魔法で2回ものされた。届かない場所からの魔法が、ああもやり難いとは……勉強させられたよ」
「って事は……こっちの3人も覚えてませんか? 空を飛んで大剣を使う魔族。右手に片手剣、左手に片手斧を持つ獣人族。それに僕達3人を相手にして、圧倒的に勝ってみせた人族です」
「……魔族と獣人族はうっすらとだが、人族はしっかり覚えてる……人とは思えない速さで動いてたよな……」
「それがこの3人です!」
「そうなのか……そんなお前達が何故捕まっている? 調書にはドーガ殿下を害そうとしたって書いてあったが……」
「それは誤解です。以前、ドーガ殿下から「近くに来た際には顔だせ」と言われたので、言葉通り顔を見せに寄っただけなんです。そしたら門番達に有無を言わさず牢に入れられてしまって……」
「ちょっと待て……お前達はドーガ殿下の知己で、本当に訪ねてきただけだと……こういう事か?」
「はい、そうです」
騎士の顔は徐々に青くなり、脂汗が滲み始めた。
「ちょっ、ちょっと待っててくれ! 責任者へ詳細を聞いて来る。あ、くれぐれも脱走など考えないでくれ。何もしていなければ、悪いようにはしない。良いな?」
騎士は途中 何度か転びながらも、走ってどこかへ行ってしまった。
「ふぅ……やれやれ、どうやら何とかなりそうだな」
「ああ、流石はカズイさんです。尤も誰かさん達は、顔も覚えられてもいなかったみたいだけどな……ぷっ」
「お、お前も似たようなモンじゃねぇか!」
「ばっ、違いますー。あの騎士、ちゃんと3人に勝ったって覚えてましたー。どっかのお2人さんとは違うんですー」
ネロはオレ達を見て頭に?を浮かべ、その姿を見たアシェラ達は小さく溜息を吐いていたのであった。




