502.獣人族 弐 part1
502.獣人族 弐 part1
祖父さんへ呪いの件を話した2日後の事。
領主館の会議室にはオレ、エル、母さん、ナーガさん、アシェラ、ライラ、ルイス、ネロ、カズイ、ラヴィ、メロウの11人が集まっている。
何故ラヴィとメロウまで参加しているのか? 当然ながら、報告のためラヴィとメロウもルイス達と一緒にブルーリングへ帰ってきていた。
そして、これも当然の如く、ルイス達へ呪いの件を話した所で「私達も付いて行くぞ!」と名乗りを上げたのである。
えー、アナタ達、主や迷宮主とまともに戦った事 無いですよね? とやんわり断ったのだが、アルジャナへ飛ばされた旅では、何匹かの主と戦闘をこなし、更に普通の魔物からでも「呪い」を受ける可能性があると言われてしまい、どうしても断る事が出来なかったのだ。
うーん……アナタ達、少し賢くなってませんかね?
以前なら猪のように猪突猛進してくるだけだったのに……かなり失礼な事を考えていると、司会役のナーガさんが話し始めた。
「これで全員ですね? では打ち合わせを始めようと思います」
そこからは「呪い」についての詳細を話し、使徒の仕事を手伝う者は、定期的に魔瘴石に触る事を決めていった。
「これからの方針については、これぐらいですかね。次は何処の迷宮へ潜るのか、日程も含めて具体的に決めていきましょう」
ナーガさんの進行は非の打ち所が無く、全員が頷いて会議は進んでいく。
「実は迷宮へ潜るのであれば、幾つか候補があるんです。ドライアディーネから、幾つか踏破してほしい迷宮のリストが届いてまして……」
更にナーガさんが話を進めようとした所で遮る声が上がる……母さんだ。
「ナーガ、ちょっと待って頂戴。アナタがエルフ本国から言われてるように、私もヨシュアから頼まれてる事があるの。獣人族の王家から………………」
母さんの話はこうだ。
父さんはここ数年、獣人族と水面下で交渉を進めてきた。
そしてとうとうエルフと同じように、獣人族とも同盟を締結するまでになったのだとか。
しかもグレートフェンリルは、妖精族の将来のため新しい町を作るのに、支援までしてくれると言う。
「そうなんですか……凄くありがたいですね。因みにその支援と言うのは、具体的に何を?」
「資金と労力の両方よ。グレートフェンリル王都のマナスポットを解放した後にはなるけど、人と資金を直接 支援してくれるそうよ」
「それが本当なら、新しい街造りが劇的に進むじゃないですか」
「そうね……ただし、幾つか条件があるの」
「条件ですか?」
「ええ。向こうとしても、資金と労力を無償で提供なんて、他の諸侯の目がある以上 簡単に出来るはずが無い。そこでグレートフェンリル内にある、迷宮2つを踏破する事で対価としたいみたいね」
「なるほど……確かに国造りは妖精族の問題で、他種族には関係無い話ですから。支援をするなら、それなりの対価と理由が必要って事ですか……」
「それでも人手と資金の援助は破格の条件と言って良いみたい。ヨシュアとしては、是非この話を進めたいらしいわ。それにこの件は、王家とググ子爵家が積極的に動いて旗頭になってるの。次代の為政者である彼等との、関係を更に深める良い機会にしたいみたい」
「ググ家……ギリク殿に王家はドーガか……他国へ直接支援なんて、だいぶ無茶をしてるんじゃないですか?」
「その通りよ。この話が流れるような事になれば、旗頭になっている彼等の顔を潰す事になる。将来のためにも、ここはサクッと迷宮を踏破してコチラのチカラを見せるのが最善手……と思ってたんだけど……」
母さんはナーガさんへ顔を向け、お互いに微妙な顔で見つめ合っている。
「ナーガ、さっきの話って、エルフ王家は絡んでいるのかしら?」
「実際に私へ届いた手紙は宰相からだけど、当然 王家も噛んでいるでしょうね」
2人は眉間に皺を寄せて、何かを考え始めてしまった。
一体 何を? 全員が頭に???を浮かべて暫くの時間が経った頃、母さんが唐突に口を開く。
「ハァ……正直、最悪のタイミングね。アル達はわけが分からないみたいだけど、簡単に言えば、これは国の体裁の問題よ。良い? エルフとは水面下ではあるけど同盟を結んでるわ。既にいる同盟相手より、新しく同盟を結ぶ相手を優遇なんて出来っこない。かといって、獣人族を後回しにすれば、こっちはエルフを優先してますよって大手を振る事になる。グレートフェンリルも一枚岩じゃないでしょうし、同盟に反対する者に格好の餌を与える事になるでしょうね」
「要は踏破する順番次第で、後々どこかに禍根が残るって事ですか?」
「ええ。最初に言ったでしょ。これは国としての体裁の話だって。どちらかを優先させれば、どちらかが後回しになる。くだらないと私も思うけど、立場の弱い私達には重大な問題よ」
母さんの言いたい事は分かるが、これじゃあ2つの迷宮を同時に踏破しない限り解決策なんて無いじゃないか。
同時に踏破……魔瘴石を浄化できるオレとエルが分かれれば、同時に踏破も可能なのか?
いや、そう言えばアオは、アシェラが使ってる「石」でも魔瘴石の浄化は出来るって言ってたな。
パーティを分ける……以前なら渋々ながらも同時に踏破を目指したのだろうが……問題はオレ。
ジョーと話し、夢の中でコボルトの主を倒したとは言え、今のオレは以前と同じように戦えるのか? 本当に迷宮主へ立ち向かえるのだろうか?
どうすれば良い……1人思考の海へ潜り、ふと視線を感じて周りを見ると、全員が心配そうにオレを見つめていた。
「そんな顔をしないで下さい……大丈夫、と自信を持っては言えないですが、僕なりに頑張りますから。ナーガさん、パーティを分けましょう。ドライアディーネとグレートフェンリル、同時に迷宮探索を進めれば文句は出ないはずですよね?」
「それはそうですが……アルド君、本当に大丈夫ですか? ラフィーナとアシェラさんから聞きました。主とギリギリの死闘を演じたと……」
ギリギリの死闘か……ナーガさんはオレに気を使っているのだろうが、ハッキリ言ってもらったほうがスッキリするというものだ。
「そんなに気を使ってもらわなくて大丈夫ですよ。僕は主に負けました。それも完膚なきまでに……それでも僕は石に齧り付いてでも前に進むつもりです。それしか出来ませんから……」
「そうですか……では飾らずにもう一度聞きます。アルド君は、死ぬ寸前まで追い詰められたと聞いています。どんな冒険者でも、そんな経験をすれば心が折れてもおかしくありません。現に引退する冒険者の多くは、「怖い」と言って去っていきますから……しかし迷宮主と戦うとなれば、アルド君は主戦力の1人になるでしょう。ましてパーティを分けるのであれば、更に負担は大きくなります。それを踏まえて……本当に戦えますか? 全員の安全がかかっている以上、本音で語ってください」
ナーガさんの言葉が重くのしかかる。確かに迷宮主といざ戦うに当たって、「やっぱり無理です」なんて言えるはずも無い。
全員が次の言葉に集中する中、オレが吐いたのは……
「……すみません。今は以前と同じように動ける自信はありません。でも僕がやらないと……いや、違う……やりたいんです! 1歩っずつでも、前に進みたいんです。お願いします。僕も参加させてください!」
オレの答えを聞いてナーガさんが口を閉ざす中、ルイスが声をあげた。
「良いんじゃねぇか? お前に全部押し付けるつもりなんざ最初からねぇよ。元々、オレもネロもカズイさんだって、お前等を助けるためにいるんだ。もう少し甘えても良いんじゃねぇか?」
「そうだぞ。アルドが全部やる事なんて無いんだぞ。オレだって、ウィンドバレットに乗れるようになったぞ。アルドの代わりを頑張るんだぞ!」
「そうだ、アルド。私が魔物なんて全部倒してやる! 後ろから付いて来るだけで良いからな」
「美味しい料理を作ってくれるなら、アルドの分くらい働いてやるぞ」
「ハハハ……皆、アルドの代わりなんて無理じゃないかな? でも僕も全力でサポートはするつもりだよ」
ルイス達の声を聞き、ナーガさんは少しこまった顔で判断に迷っているようだ。
「ナーガ、アナタの負けね。踏破は2つ同時に行うよう手配して頂戴」
「ラフィーナ……分かったわ。でもアルド君とエルファス君を分ける必要があるんだから……パーティ編成には口を出させないわよ」
母さんは言葉を発さず、肩を竦めて返している。
方針が決まった以上、そこからは詳細を詰めていく事となった。
「この編成が一番安定するんじゃないかと思うわ……後はアルド君次第ね」
全員で納得いくまで話して決めた編成は、エルを筆頭に、母さん、ナーガさん、ラヴィ、メロウの5人。
こちらはナーガさんがいる事から、ドライアディーネに向かう事が決まった。
対してグレートフェンリルチームは、オレを筆頭に、アシェラ、ライラ、ルイス、ネロ、カズイの6人。
これはアシェラとライラ以外、獣人族の王家と顔見知りである所が大きい。
「アルド君、そちらは6人ですが、エルファス君と言う絶対の盾がありません。くれぐれも気を付けてください。最悪は迷宮に挑んだ事実さえあれば、どうとでも言い訳はできます。決して無理はしないと約束してくれますか?」
「大丈夫です。それよりラヴィさんとメロウさんをお願いします。2人は初めての迷宮ですし、その……ルイス達より一段弱いと言うか……頼りないと言うか……」
「アルド! 私も以前よりは強くなった! 今ならアルドと良い勝負が出来るはずだ!」
「私は弱くないぞ! 魔物を怖がってるアルドより役に立つ!」
おふ……メロウさん、あまり心の傷を抉らないでほしいんですが……ほら、他の人も眉尻を下げて、微妙な空気になっちゃったじゃないですか!
「アル、2人は私が責任を持って守ってあげる。だからアンタも絶対に無事で帰ってきなさい。良いわね?」
「はい、母様。僕はここへ絶対に帰ってきます……約束します」
この日の1週間後、ボーグからドラゴンアーマー修理完了の知らせと共に、オレ達はそれぞれ目的の国へ飛んだのであった。




