494.マナスポット
494.マナスポット
アオにマナスポットの詳細を聞かせてもらった。
内容はこうだ。以前教えてもらった通り、この世界には3つの大陸がある。最も大きいウーヌス大陸、2番目のドゥオ大陸。そして遠い過去、魔物に呑まれたと言われるトレース大陸だ。
ウーヌス大陸は最も大きい事に加え、生物の営みが活発な事から全マナスポットの5割があると言う。2番目の大きさを誇るドゥオ大陸は、3割。そして魔物に呑まれたトレース大陸と海が1割ずつあるのだとか。
「トレース大陸と海の中は、例え使徒であっても解放なんて出来ない。だからアルド達には、ウーヌスとドゥオ、2つの大陸のマナスポットを解放してもらいたいんだよ」
「ウーヌスとドゥオ……合わせると、全マナスポットの8割……オレ達がどんなに頑張っても、残りの2割は解放出来ないって事か」
「ああ、そうだね。そして今現在は、おおよそウーヌスの4割とドゥオの1割が、解放されてるんだ。今回、コボルトのマナスポットを奪ったお陰で、後少し……本当に後少しで5割になる。きっと1個か2個、マナスポットを解放すれば、5割を越えるはずだよ」
「後1個か2個……それで最低限の仕事は終わる……」
「勿論、半分を解放したから、これ以上は必要ないって事にはならないのは理解してほしい。ギリギリだと直ぐに5割を切っちゃうんだから……でもアルドの言う通り、使徒として最低限の使命は達成された事になるんだ」
「そうか……」
一時は死ぬまで戦いを強いられて、磨り潰される未来を予想しただけに、アオの言葉は小躍りしたいほど嬉しかったのは間違い無い。
しかし、遠い将来や子孫の身を案じれば、少しでもマナスポットを解放し続ける必要はあるわけで……何とも判断に悩む内容であった。
「ふぅ……お前の言う事は分かったよ。それを踏まえて幾つか聞きたい事がある」
「僕に分かる事なら話すよ。正直、僕も今回みたいな無茶をされたく無いからね。それで何を聞きたいんだい?」
「先ずはトレース大陸と海のマナスポットの件。特にトレースの方だ。トレース大陸は遠い過去、魔物に呑まれた大陸って言ったよな? って事は過去には人が住んでたって事なのか?」
「そうだね。遠い遠い昔、まだこの世界に人族しかいない時代。3つの大陸には人が幾つもの国を作って住んでいたんだ。でもね、人は常に争いあった。いつ終わるとも知れない世界の中で、いつしか瘴気が沸き出し、その瘴気に汚染された魔物が生まれたんだ」
「人が3つの大陸全部に……そんなに繁栄した世界でも、1つの大陸が魔物に呑まれるって……一体、何があった?」
「良い機会だね。人は一度、滅びそうになったんだ。その話を聞かせるよ。あれは気が遠くなるほどの昔………………」
アオは遠い過去の記憶を呼び覚ますように、目を閉じ歌うように話し始めたのである。
「………………って事で、世界の崩壊を防ぐために、精霊王様は「使徒」と「新しい種族」を生み出す事にしたんだ。現に最初の種族であるエルフ族は、自然を愛し非常に穏やかな種だった。その性分は、後に生まれたドワーフ族、獣人族、魔族よりも顕著なはずだよ。尤も、その特性のお陰で少し臆病で内向的でもあるんだけどね。アルド達がエルフを閉鎖的って言うのは、裏を返せば戦いを好まず優しい種族である事の証なんだ」
「ちょっと待ってくれ。種族間の争いはエルフも参加したんだろ? 優しい種族ってのはどうなんだ?」
「それは当たり前だろ。自分や家族、友人や知人が危険に晒されて、黙ってるだけなんて生物として在り得ない。そんな存在がいるなら、それは生きる事を諦めた死者か何も考えていない愚者だけだよ。人も動物も魔物ですら、この世界に生きる者は、誰も日々を生き抜くために戦ってるんだから」
「生きるために戦う、か……そりゃそうだな。食わなきゃ死ぬ以上、どんな存在でも自分と大切な者を守るために戦ってる」
「ああ、そうさ。隣人と手を取り合って困難に立ち向かうのが人のあるべき姿だ。ただ大きすぎる争いは、誰も望まない。特に人同士が殺し合うなんて……でも遠い過去からずっと人は争い続けた」
「それで瘴気と魔物が生まれたのか……」
アオは何も言わずに大きく頷いた。
「最初は僕達精霊で対処したんだ。魔物を倒し、瘴気を浄化して……でも無理だった。前にも言ったけど、僕達上位精霊は地上での活動に制限がある。マナに干渉し過ぎてしまうんだ。例えばドライアドが地上に顕現すれば、植物が異常に発達する代わりに、本来 水や大地を巡るはずだったマナが枯渇してしまう。最悪は渇水になったり地震が起こる。それも予期しない形で……」
「何となくお前の言いたい事が分かったよ。要はマナってリソースを均等に配分する予定だったのに、上位精霊が現れた瞬間、無条件でリソースを食い尽くしてしまうって事だろ?」
「そのリソースってのが何か分からないけど、ニュアンスで何となく分かる。僕達も世界に影響が出ないよう、精一杯 対処したんだ。でも瘴気は尽きるどころか加速度的に増えていく。最悪は精霊が手を出す事で、人の生活に影響が出て瘴気が増える事さえあったんだ」
「なるほど……それで悩んだ精霊王は、「使徒」と「新しい種族」ってシステムを思いついたってわけか」
「アルド、いつも言ってるだろ。「様」を付けろよ、不敬だぞ……そう、アルドの言う使徒のシステムは劇的だった。何て言っても使徒の魔力を媒介にして僕達 上位精霊が顕現できたのは、アルドの言う通り画期的だったんだ。特に「新しい種族」は人の可能性そのものだった。考えてみてほしい。魔物と言う脅威へ立ち向かうための最適解を。全てに平均的な人族。魔法技術に才のあるエルフ族。最高の道具を作り出すドワーフ族。そして身体能力に特化した獣人族。魔族は数が少ないけど、どこでも才能を発揮できる」
「お前の言いたい事は、何となく分かったよ。魔物と言う脅威に対抗するため、人と言う種は進化したって言いたいんだよな? 前衛は獣人族が務め、後衛はエルフが。道具はドワーフが作って、魔族が臨機応変に穴を埋める。人族は凡庸ではあるが、致命的な欠陥は無い……全種族が協力さえすれば、魔物って脅威にも対抗できる。要は精霊王からすれば、共に手を取り合って困難に打ち勝ってほしかったってわけか……」
「その通りだ。精霊王様は、「祝福」として「新しい種族」を生み出したんだよ。魔物という新たな脅威に対するために……でも人はそれでも戦いを止めなかった。終いにはトレース大陸を魔物に奪われ、ドゥオ大陸でも数を減らしていったんだ。悩んだ僕達 上位精霊は、僅かに残った人をウーヌス大陸へ飛ばした後、マナが荒れる事を承知でドゥオ大陸の魔物を駆逐していった。お陰で何とか動物だけは生きていける土地を残す事ができたんだ」
「なるほどな……それでドゥオ大陸が人が住めるまでに回復した後、アルジャナの民を導いたってわけか」
「ああ。そこからはアルドも知っての通りだよ。ウーヌス大陸では、戦いに疲れた者達がお互いに融和を求め、ドゥオ大陸では人族だけが袂を分かって新たに国を作った。やっと大きな争いが無くなった事から、瘴気の量も安定していったんだ。でもマナスポットは徐々にだけど、確実に魔物の手に渡っていった……そして20年前、とうとうこの世界の半分のマナスポットが、魔物に汚染されて僕が次の精霊に選ばれたんだ」
何とも壮大な歴史だ……その1ページにオレの名が刻まれるとか……過去の使徒は4人しかいない以上、確実に名が残ってしまう。
ここは是非、エルにその大役を任せようじゃないか。
思考が逸れた。
「アオ、話は分かった。これから一生マナスポットを解放するのは変わらないが、今の段階で最低限の務めは果たしてるって事で良いよな?」
「ああ。でもそれは残り1~2個のマナスポットを解放してからだよ。今はまだ果たして無いからね」
オレは何も言わず肩を竦めて返しておいた。
やる事は変わらないが、随分 肩の荷が降りた気がする。そうか……後1~2個の解放で最低限の務めは果たすのか……
これで歴史の授業は十分だ。お腹一杯と言っても良い。後は過去の使徒について聞いておきたい。
一体、彼等は一生のうちにどれだけのマナスポットを解放したのだろうか。
「アオ、次の質問だ。過去の使徒はどれだけのマナスポットを解放したんだ? 参考にしたい」
アオは一転、微妙な顔で言い難そうにしている。
何だ? 聞かれたく無い事だったのか? もしかして……お前、やっぱりオレを良いように使い潰そうとしてたんじゃ……
そこからアオから聞いた話は正に千差万別……十人十色……犬も歩けば棒に当たる……これは違う。
先ずはエルフの使徒ジェイル。彼は一生の内に、ウーヌス大陸 全てのマナスポットを解放したそうだ。
その頃はまだ、ドゥオ大陸も2.5割が解放されていた事から、圧巻の7.5割!
うーん、素晴らしい。打率で言えば殿堂入り間違い無しだ。
「凄いな。じゃあ、次はドワーフの使徒だな」
「ドワーフ……アグニの使徒だね。彼の名前はドンゴ。とても寡黙で、暇があれば魔道具を作っていたそうだよ。しかも戦いにも才があったみたいで、巨大な槌を使って魔物を倒していたらしい」
「ドンゴか……そう言えばドワーフの使徒の名前を始めて聞いたな……ってか今までドワーフを見た事が無い……」
「彼らは人前を嫌うから……きっとアグニの性分を引き継いだんだろうね。アイツは少し変わってるから」
少しアグニに対する愚痴? を聞いた後、アオから聞いた戦績は、脅威の7割。
ジェイルより少し落ちるが、その頃にはドゥオ大陸のマナスポットの汚染が進んでおり、この数字となった。
そして次は獣人族。ギギの勇名はチビやフェンリルからも聞かされており、さぞ沢山のマナスポットを解放したのだろうと思ったが、実際はドンゴと同じ7割だったそうだ。
しかしギギは、使徒で初めてドゥオ大陸に渡ったのだとか。
何でもフェンリルの背中に乗って海を越えたらしい……フェンリルって海の上走れるんだ。
沈む前に次の足を……ってヤツかな? うーん、アイツなら「わん!」って言ってやりそうではある……
ウーヌス大陸で4割、ドゥオ大陸で3割を解放した事から、主軸はドゥオ大陸だったのかもしれない。
そして最後、魔族の使徒ティリス。
彼女は不幸な境遇から、一番少ない6割だった。
しかし、その実績の殆どは、子を産み育て終わった後で行った事であり、30歳以降であれば全使徒の中で一番多くマナスポットを解放したそうだ。
「なるほどなぁ……トレース大陸と海のマナスポットが解放出来ない以上、6~7割が妥当な所なんだろうな」
オレの言葉にアオは言い難そうにしながら口を開く。
「で、でも、今はドゥオ大陸のマナスポットは1割を少し切ってるんだ。出来ればアルド達には、ウーヌス大陸とドゥオ大陸のマナスポットを、可能な限り解放してほしい……ダメかな?」
「ハァ……約束は出来ないけど、頑張ってはみるよ」
「ありがとう! 無理をする必要は無いけど、僕はアルド達なら出来る気がするんだ……もし、万が一だけど、世界全てのマナスポットを解放できたのなら……人は魔物の脅威から解放されるかもしれない………………ハハッ、出来るわけ無いよね、そんな事……何言ってるんだろ、僕……」
そう話すアオは、ここでは無いどこか遠くを見つめていたのであった。




