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(仮)アルドの異世界転生  作者: ばうお


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491.コボルト part5

491.コボルト part5






両腕に側近の躯を抱いていた主は、先ほどと同じように、かつての部下の亡骸を壊れ物を扱うかのように優しく床へ置いた。

その心に映るのは悲しみか……主は俯いて微動だにせず動く様子は全く無い。


……お前の気持ちは痛いほどよく分かる。この地で平和に暮らしていただけのお前達を、襲っている自覚もある。

魔物……願わくば、来世では瘴気を持たない動物か人に生まれ変わってくれれば……


感傷がオレの心を染めていく……しかしオレ達は命のやり取りをしているのだ。己の中の弱さに蓋をして、再度 魔力武器(大剣)に超振動をかけた。

ヒィィィィィィィィン。


せめて苦しまないよう送ってやる……オレにはそれしか出来ない……

先ずは足……次にソナーを打って、証を奪えばそれで終わりだ!


主へ突っ込もうと足にチカラを入れた所で、オレの頭の中には最大級の警鐘が鳴る。


ドォォォン!!


勘に従い、咄嗟に背後へ飛んだお陰で、辛うじて躱せたが……何だこれは……

先ほどまでオレが立っていた場所には、5メードほどのクレーターが出来上がり、中心では主がゆっくりと立ち上がろうとしている。


これはコイツが? 意識を割いていた事もあるが、主の動きが殆ど見えなかった。


「グルルゥゥゥ! ガゥ!」


コボルトの言葉なのだろう。主が何事かを口にした途端、残った側近の2匹はゆっくり頷いて、エルの下へ向かおうとしている。

待て! ただでさえ数の暴力に、エルは飲み込まれそうになっているのだ。更にコボルトキング2匹だと? 行かせるわけが無いだろうが!!


主を無視して側近へ向かおうとした所で、再び先ほどの寒気がオレを襲う。

またもバーニアを最大で吹かして躱したつもりだったが、1歩遅かったらしい……爆風に巻き込まれたような衝撃を受け、地面を転がされてしまった。


クッ……コイツ……さっきとは速さも重さもまるで違う……これがコイツの本当の実力って訳か……

直ぐに起き上がって短剣を構えるも、主は怒り狂った目でオレを射殺さんと睨みつけている。


「直ぐには殺さない。いたぶり抜いて殺してやる」、主の目はそう告げているかのようだ。

心構えだけで、こうも強さが変わるものなのか? どうする? このまま戦っていいのか?


そもそもこの戦いは、主が戦えない前提で始めたのだ。こうも主が戦えるのであれば、根本から話が変わってくる。


しかも、恐らく魔瘴石が壊れるまでの時間も、残ってはいないはずだ。

想定より上位種が強い……主も十分戦える……更に時間の縛りが想定よりキツイ……


フル回転で頭を働かせた結果、残念ではあるが、この瞬間オレは撤退を決めた。

であれば、長居は無用。上位種を押さえ込んでいるエルへ向かって声を張り上げる。


「エル! 聞こえるか! 撤退だ!! 魔瘴石まで下がって、ブルーリングへ飛ぶぞ!」


数秒の後、酷く疲れたエルの声が聞こえてくる。


「ハァハァ……はい……ハァハァ……分かりました!」


エルがあそこまで消耗させられたのか……恐らく生き残ったコボルトが、全て集まってきているのだろう。その証拠に、エルの周りに倒れているコボルトの骸は、夥しい数に及んでいる。

コボルトの集団から、エルが空へ飛び出したと同時に、オレも撤退するべく足にチカラを入れた。


再びの寒気……咄嗟にバーニアを吹かす事で直撃は免れたが、またまた地面を転がされてしまった。


「兄さま!!」


主……コイツは目に憎しみを浮かべ、エルには見向きもせずオレだけを睨みつけている。

どうやらコイツは、側近の仇であるオレが逃げるのを許してくれるつもりは無いらしい。


オレの一挙手一投足を見つめ、隙あらば襲い掛かろうと身構えている。

クソッ、ここまで自力に差があるとは……結局、全てはアオの言った通りになってしまった


アオがあそこまで頑なだった理由が理解できてしまう。

早すぎたんだ……


覚醒した主がここまでのチカラを持っていたとは……コイツはオクタールのオーガに匹敵する強敵だ。

コイツが戦い慣れていないのを考慮しても、オレとエルだけでは勝率は6:4でオレ達の負け……恐らく勝てないだろう。


その際にはオレだけで無く、エルも逃げられず、殺されてしまう。

どうする? どうする? 思考が驚くほど回るものの、妙案など浮かんでくるはずも無い。


思えば、側近の命がコイツにとっての逆鱗だった……無理をしてでも、先にコイツの足の一本でも奪っておければ……後悔が心の底から沸き上がってくる。

これはオレのミス、全てを軽く考えたオレのミスだ……


事ここに至っては、命の使い方を考える必要がある……エルと一緒に一か八かで主に挑むか? バカな……心の中でゆっくりと首を振った。

最悪の最悪でも、オレかエルのどちらかは生き残る必要がある。そうでなければ数百年後に世界が滅ぶのだから。


だったら……生き残るのは王としても生きる覚悟を持つエルだ。

本音を言えば、アシェラにシャロン、オリビアにライラ、愛する者達と、もっともっと一緒にいたかった……それにオリビアの子供……アオから生まれたのは男の子と聞いている。


帰ってきたオレと一緒に名前を付けるため、今はアルドジュニアと呼ばれているとアオは言っていた。

会いたい……会って思い切り抱きしめてやりたい……


オレは全ての想いに蓋をして、エルへ一世一代ののやせ我慢で、平静を装いながら口を開いた。


「エル……どうやらコイツは、側近を殺したオレが目当てらしい。お前は先に逃げろ。お前だけなら逃げられる」

「いきなり何を……そんな事出来ません! 僕も一緒に戦います!」


エル、すまない……コイツは今のオレ達では無理なんだ。だったら、せめてお前だけでも……


「エル、聞いてくれ……コボルトは頭が犬なだけあって、追跡型のハンターだ。この主からは、魔瘴石で飛ばない限り、空を飛べるとしてもきっと逃げきれない……だから、な? 頼む、逃げてくれ」

「ここに兄さま1人を置いてくなんて……絶対に出来ません!!」


エルはハッキリとオレの言葉を拒絶した。

しかし、もう時間が無い。恐らく魔瘴石が壊れるまで数分……5分あるかどうか……


しかもオレを主の獲物と判断したのだろう。側近や上位種も襲ってくる気配は無いが、既にオレは囲まれている……オレに逃げ場は……無い。

だったら!


「エル! エルファス=フォン=ブルーリング!! 大事な事だ、心して聞いてくれ。お前はどんなに生き恥を晒しても、生きなきゃいけない。それが使徒になった者の宿命だ! お前に全て任せて悪いと思ってる……ただ、もう時間が無いんだ……兄貴として最初で最後の命令をする……逃げろ、エルファス!」


「兄さま……兄さま!!!」

「お前の兄で幸せだったよ……アシェラ達へ愛してるって伝えてくれ……」


エルは目に涙を溜めながらも、最後にはオレの言葉に従ってくれた。

オレは改めて主へ向き直る。


「待たせたな……待ってくれるとは思わなかったよ。そこだけは礼を言う。ありがとな……」


主は何も言わず未だに憎しみの籠った目で、オレを見つめている。

エルにはああ言ったが、オレもこのまま指を咥えてやられるのを待つつもりは無い。


恐らくチャンスは一度きり……エルを巻き込んでしまわないためにも、わざと厳しい口調で突き放したのだ。

エルとの会話の途中から、残り少ない魔力を練って起死回生の一手の準備は出来ている。


「ただな、オレも黙ってやられるつもりは無いんだよ……悪いな。これでも食らえ! フラッシュ!!」


その瞬間、オレを中心に、辺りは眩い光に包まれた-。

今だ! 空にさえ逃げられればどうとでもなる! バーニアを最大で吹かせ、渾身のチカラで地面を蹴った。


最高のタイミングだ! 行ける! 帰れるんだ! そう思った次の瞬間、かつてない衝撃がオレの背中を突き抜けていく。

焼け残った建物を幾つも壊し、幹だけが残った大木にぶつかってオレの動きは止まった。


「ごほごほ……カハッ……」


オレの口からは咳と共に血が零れ落ち、自分でも満身創痍なのが理解出来てしまう。

な、何が起こった? 空へ駆け出したはずなのに……まさか攻撃を受けた? バカな……主も側近も上位種さえ、あの瞬間、全員の目を奪っていたはずだ……


バラバラになりそうな感覚の中、チカラを振り絞って顔を上げると、そこにはフラッシュの影響なのだろう。未だに目を閉じてはいるが、拳を振り抜いた姿の主が立っていた。

やっぱりお前がやったのか……でも何でオレの位置が正確に分かったんだ……


混乱する頭を殴り付け、主を観察して何が起こったのか、全てを察してしまった。

臭いか……


そう、主は目を閉じながらも、クンクンと鼻を動かし辺りの臭いを嗅いでいる。

犬は人の何千倍もの嗅覚を持つと言う。


しかも主……きっと目で見るのと変わらない精度で、辺りを知覚出来るのだろう。

詰んだ……魔力は4割残っているものの、さっきの攻撃で背骨をやられたらしい。


下半身がピクリとも動かず痛みすら感じられない。

どうやらオレはここまでのようだ……走馬灯のように懐かしい景色が頭の中を流れていく。


生まれたばかりの時には、母さんを巨人と勘違いしたんだ……そして隣に眠るエルを見て、双子だって察したんだったか……

それからも色々な事があった……アシェラに初めて会った時には。誘拐されたんだ。


タブににマール……学園に入ってからは、ルイスにネロも……ファリステアが王妃になるとか、あの頃じゃ考えられなかった。

そして使徒……オレが世界を救う救世主とか、何の冗談だって話だ。


沢山の主と戦い、同じ数だけ勝利を拾ってきた。余裕だった戦いもあれば、ギリギリだった物もある。

しかし、どの戦いもオレの根底にあったのは、身近な人の顔だった。


アシェラ……オリビア……ライラ……会いたい……会いたいんだ。

そんなオレの思いを知るわけも無く、主は警戒しながらゆっくりと近づいて来る。


オレはこの体たらくなのに……今更、何を警戒する必要があるのか……まぁ、実戦経験の少なさから、過剰に反応してるのだろうが。

今の主は、王としての覇気を纏っており、当初 感じた気弱さなど一切感じられ無い。


怒りを秘めた目からは、何があってもオレを殺すのだと鋼の意思を感じさせていた。

主が近づくと同じだけ、徐々に「死」が歩み寄って来る……かつてない恐怖がオレの心を染めていく。


お、オレ、本当に死ぬのか? い、嫌だ……再度 足にチカラを入れるも、やはり全く動く気配すら無い。

くそっ、足さえ動けば……まだ魔力は4割残ってるんだ……このままじゃあ死ねない。死にたくない!


主に気付かれないよう、そっと自分の体にソナーを打ってみるも、やはり腰の骨が折れて神経が切れている。

守りの壁とチビの皮のお陰だろう。あれだけの衝撃の割には、背骨だけの損傷で怪我は限定的だ。この程度なら、ソナーを打って集中さえ出来れば、5分ほどで治せるはずだ。


しかしこの状況での5分は……眩暈がするほどの時間に感じられる。

主はここにきて、オレが本当に動けないと判断したのだろう。醒めぬ怒りを露に、拳を握り締め ゆっくりと振りかぶっていく。


死……まるで死神が不気味に笑いながら、鎌を首筋に当て「覚悟は良いか?」と問いかけてくるかのようだ。

自分で立つ事すら出来ず、目の前の主に殺されるのを待つだけ……そんな追い詰められたオレの口から出たのは、使徒としての矜持など何も無い、みじめな命乞いであった。


「ちょっ、ちょっと待て! 待ってくれ! 分かった、分かったから! ここのマナスポットは諦める! 今代の使徒が言ってるんだ。アオやエルには、何も言わせない! だから……な? た、頼む、助けて……殺さないでください! お願いします!」


形振り構わない命乞いを叫ぶも、言葉など通じるはずも無く……弓が極限まで引き絞られるように、主の筋肉が張り詰められる。

いやだ! 死にたくない! 思わず目を閉じ身を固くし、亀のように縮こまってしまう。


次の瞬間、特大の爆発音……くっ……1秒……2秒……5秒……痛みも何も感じない……オレは死んだのか? 痛みを感じる間も無く、ひき肉に……

心の中で自分の頬を殴りつけ、恐る恐る目を開けて飛び込んで来た光景は……


何だこれは……先ほど主が立っていた地面には特大の大穴が空き、当の主は何故かオレから距離を取って、忌々し気に魔瘴石があった丘を睨みつけている。 

え? この穴は一体……何が起こった?


今の状況が全く分からない……混乱して呆然とするしか出来ない中、ドシドシと遠くから何かの音が聞こえてくる……これは足音? 

徐々に大きくなってくる足音が、ドスンドスンと地面を揺らすほどになった頃、燃え残った建物を破壊してやってきた者がいた。


『アルドよ、だいぶやられたようだな。しかし我が来たからには、安心するがいい』


死すら覚悟したオレの前に現れた者の名は……


「チビさん……」


そう、過去の使徒、ギギの従者でもあった地竜の王チビ、その人である。

何故? 何で? どうやって? 様々な疑問が浮かぶも、オレの心を埋め尽くしたのは、「助かった……」この言葉だけであった。






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― 新着の感想 ―
最後保身に走ってしまったな。家族を思うと泥水啜っても生きたいと思うから仕方ないけど。使徒として生きる意思が折れてしまいそう。
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