488.コボルト part2
488.コボルト part2
オレ、エル、カズイの3人で話し合った結果、コンデンスレイを1発だけ撃ち込んで様子を見る事を決めた。
何故 1発? そう思うだろうが、2発 撃とうとすれば、当然ながらオレとエル、2人共が魔力枯渇で意識を失ってしまう。
魔瘴石が貴重な戦略物資である以上、安易に消費出来ない事から、この案に落ち着いた。
「要は威力偵察だな。コンデンスレイの奇襲を受けた、コボルト共の行動が見れるのは大きい。緊急の際でも統率を維持できるのか……後は主の行動も。アオが言うように、愚鈍な王なら付け入る隙があるかもしれない」
「分かりました。それに今回は無理でも、いつかは此処のマナスポットも解放しないといけない訳ですから、数を削っておくだけでも価値はありますしね」
「そうだな。じゃあ、軽く一当てと行こうか」
「はい」
やると決めたのなら、少しでも数を減らしたい。3人で相談した結果、今回はなるべく被害が大きくなるよう、コンデンスレイをジグザグに撃つ事にした。
「エル、お前が撃つか?」
「いえ、兄さまが撃ってください。僕は辺りの警戒と、被害の確認に注力します」
「分かった。じゃあ、行くぞ」
そう言葉を吐いた後、右手の指先を微かにしか見えない巣の端へと向けた。
マナスポットは巣の中心にある。間違っても絶対に壊さないよう、細心の注意で魔力を集め、凝縮していく。
集め……凝縮……ひたすら魔力を指先の一点に集めていくと、一瞬だけ瞬くように光が力強く輝いた。
「行く!」
その瞬間、極細の光が巣の果てに舞い降りる。同時に巣全体を、ジグザグに光の剣で叩き切ってやった。
ー赤ー
光の剣を振るわれた場所は、コボルトであれ建物であれ全てが蒸発し赤い霧に代わり、次に来る炎の赤の燃料へと代わり果てる。
巣全体が赤く染まるが、実際に燃えているのは光の剣が振るわれた場所だけ……
この規模だと、コンデンスレイでも被害は限定的か……ここで後4~5発 追撃出来れば……ふぅ、サイは振られたんだ。今更 言ってもしょうがないか。
「エル、魔力ありがとな。戦闘には心許ないが、1時間後に探索だけはしておこう。たぶん落ち着いたらここにもコボルトがやって来るはずだ。少し下がるぞ」
「はい」「うん」
エル、カズイと一緒に、1キロほど下がった木の上へと移動した。
これでコボルト共の行動が大まかではあるが分かるはずだ。その結果で、攻めるか引くかを決める。
そのまま木の上で、軽く干し肉を齧りながら時間を潰した後の事。
「アルド、そろそろ1時間が経つよ。どうするの?」
「そうですね……まだ火は収まって無いとは思いますが、正直 僕も気になってます。一度、見に行ってみますか」
こうして空間蹴りでかなりの高度を保ちながら巣を確認したのだが、驚いた事に火の大部分は消されており、必死に動き回っているコボルトの姿があった。
「建物を壊して延焼を防いだのか……」
思わず口に出た言葉が全てである。粗末な建物故、簡単に壊す事もできるのだろう。
当初の想定より、随分 被害が小さいように見える。
「兄さま、思ったよりコボルト達は統制されているみたいです……これだけ組織的に動けるとなると、攻めるとしても一筋縄ではいかないかと……」
「ああ。正直、ここのマナスポットを解放するには、アオが言うようにもっと強くなって、アシェラ達も呼んで組織的に攻撃する必要がありそうだ……今回は諦めるとしても、主の行動だけは確認しておきたい。エル、カズイさん、少し待っててください」
「兄さま1人で調べるつもりですか? ダメです、危険過ぎます!」
「近づいて範囲ソナーを打つだけだよ。大勢で行って見つかりたく無い。少しでも見つかるリスクを下げたいんだ。直ぐに戻ってくるから……頼むよ、エル」
「分かりました……でも無茶だけはしないでください」
「分かってるって。じゃあ、行ってくる」
オレは心配するエルとカズイを置いて、空へと駆け出していった。
◇◇◇
徐々に高度を下げていき、マナスポットを中心に範囲ソナーを打ってみた……いた。どの上位種よりも圧倒的なチカラを感じる存在。
感覚にはなるが、ブルーリングを襲ったゴブリンエンペラーより上……2つのマナスポットを得た、オクタールのオーガより少し下ぐらいだろう。
「これだけのマナスポットを得た主だ。種族に違いはあっても、オクタールのオーガに近いチカラを持ってるのか……」
圧倒的なチカラを持つ主に、それを支える上位種。更に上位種の指示ではあるだろうが、末端まで組織的な動きをする雑兵。
まるで付け入る隙が無い……撤退かな。
諦めて踵を返そうとした所で、おかしな事に気が付いた。
「ん? ちょっと待て……これだけのチカラを持っているのに、何で主は動こうとしない?」
火も殆ど消され、事態は収束に向かっているにしても、主が全く動かないのは何故なのか。
指揮の類をしている様子も無いんだよな……現に主の周りには5匹の上位種がいるだけで、指示を仰ぎにくる者など1匹も来ないし……
「もしかして……マナスポットの隣で縮こまってるのか? まさかな……」
うーん……これはどう判断すれば良いんだろ。出来れば、一当て出来れば一番良いんだろうけど……今は魔力が半分しか無いしな。
悩んだ末に出した答えは、完全な安全策であった。
「エル、カズイさん、撤退しましょう」
オレがアッサリ引くとは思っていなかったのか、エルとカズイは少し驚いて首を縦に振ったのであった。
◇◇◇
巣から2キロほど離れた草原で、オレ達は昼食の準備をしながら先ほどの内容を擦り合わせしている所だ。
「エル、主は上位種5匹に囲まれて、動く様子は無かった……指揮をしている感じも無かったし、正直 どう判断して良いのか分からない」
「え? 主は動いて無かったんですか? あれだけの被害が出たのに?」
「ああ。伝令の類も一切 来る事は無かったからな。恐らく指揮も執ってなかった」
「そうなんですか……あの主は長の仕事どころか、統治者としての責務も果たして無いのですか……」
そう話すエルは、それ以上 何も言わず、何かを考え込んでしまった。
恐らく群れの長として何の責任も果たしていない主に、言いようの無い不満を感じているのだろう。
エルはこうして第一線で戦闘もこなし、拙いながらも執務を行っている。
立場も種族も違うが、同じ統治者として、あの主の存在を受け入れる事は出来ないのかもしれない。
誰も言葉を発する事も無く、オレが昼食を作るのをエルとカズイが眺めている。
「出来た。今日は干し肉とドライ野菜のスープに、黒パンとジャムだ。メインの肉か魚が欲しかったが、余裕が無かったからな。物足りないかもしれないけど、食べてくれ」
「十分です、兄さま。頂きます」「野営でこれだけの物を食べられて、文句を言う人はいないと……あんまりいないと思うよ」
カズイさん、少し聞きたいのですが、アナタの頭に浮かんだのは誰ですか? 因みにオレは全員女性で、頭にア、ラ、ラ、メ、ラが付く5人が浮かびました。
今思ったけど、ラの付くヤツ多いな! きっと頭文字にラが付くヤツは、食い意地が張ってるに違いない。うん、きっとそうだ。
食事を摂りながら、エルがゆっくりと口を開いた。
「兄さま、どうするつもりですか?」
「……普通に考えれば撤退だろうな。魔瘴石を使って攻めたとして、雑魚はコンデンスレイの余波に巻き込まれて殆ど死ぬだろう。生き残っていたとしても、オレ達の脅威には成り得ない……問題はやっぱり上位種。マナスポットの近くを狙撃出来ない以上、恐らく100近い上位種と主を相手にしないといけない
。どうもマナスポットに近い場所に、強い個体が住んでるみたいだからな。オレ達の世界で言えば、貴族街と商業街みたいなモノか……」
「撤退ですか……」
「どうした? お前は賛成すると思ったんだけど、違うのか?」
「僕も撤退するべきだとは思います……でも本当に主が弱いのなら、これだけのマナスポットを解放するチャンスなんじゃないかと思って……」
エルはこう言って、また思考の海へ潜っていく。
確かにエルの言うように、チャンスと言えばそうなのかもしれない。ここの主が世代交代すると言うなら、次の世代で弱いとは限らないのだ。
「うーん……攻めるなら、魔瘴石を使ってコンデンスレイでの奇襲は絶対に必要だけど……やっぱり、ただ逃げるってのは流石に勿体ないんだよなぁ」
オレとエルが頭を抱えている姿を見て、カズイは空気を変えるように話し始めた。
「直ぐに答えを出す必要は無いんじゃない? 今更、1日や2日使ったとしても、2人が納得できる答を出す方が良いんじゃないかな?」
オレとエルはお互いの顔を見て、眉尻を下げて小さく頷きあう。
「そうですね。確かにカズイさんの言う通りです。もう少し考えてから結論を出そうと思います。それで良いよな? エル」
「はい」
そう決めて2日が過ぎた。
あれから毎日、1日5度 主を調べて分かった事は、本当に何もしない事である。その姿は正に、「君臨すれども統治せず」を体現していた。
「生まれてから、ずっと食っちゃ寝の生活なのか? 普通ならまともに動けるとは思えんけどなぁ……感じられるチカラだけは大きいし……参ったな」
草原に寝転がって独り言を呟いていると、隣から返す言葉がある。
「範囲ソナーで分かったのは、一日中 寝転がって動いて無い事です。あんな生活をしていては、どんなに潜在能力が高くても、まともに動けるとは思えません」
オレは上半身を起こし、近くの岩に座っているエルへ視線を移した。
エルの目には、ある種の覚悟が見える。
「やるか?」
「はい!」
「よし! じゃあ、攻めるのは明日だ。そうと決まれば、今日の内にもう1発コンデンスレイを叩き込むぞ!」
「分かりました!」
オレ達の様子を見ていたカズイは、呆れた顔で小さく笑みを浮かべていたのであった。




