487.コボルト part1
487.コボルト part1
開拓村を発って2ヶ月が経った。アルジャナを目指す旅自体は順調なのだが、1つ、大きな問題がある。
それはアルジャナまでの道中、解放するにのに手頃なマナスポットが無いと言う事だ。
丁度良い規模のマナスポットがあると思えば、大きく迂回する必要があったり……程よい距離かと思えば、マナスポットが大きすぎたりと、なにがしらの問題を抱えている。
「ハァ……アオ、じゃあ何処なら良いんだよ」
「だからさっきから言ってるじゃないか。ここなら大きさも手頃だし、アルジャナへ向かう道中にある。先ずはこのマナスポットを解放するべきだ」
「だ・か・ら、そこだとどうやっても後3ヶ月はかかるだろ。そもそもこの場所だとイリルの街の直ぐ手前だ。これからの事も考えると、やっぱり ここのマナスポットを解放したい」
「もぅ、何度言わせるんだよ! そこは大き過ぎるって言ってるだろ。ここはハクって主が管理してたマナスポットと同じくらいの大きさなんだ。今は姐さんやアシェラもいないんだよ? エルファスと2人だけで、万が一があったらどうするのさ!」
野営の際、地図を広げてアオと何を言い争っているのかと言うと、次に何処のマナスポットを解放するかを揉めているのだ。
「アオ、お前が危険だっていう気持ちは良く分かる。でも、いつかはこのマナスポットも解放するんだろ? だったら今回でも良いはずだ」
「ハァ……あのねぇ、ここは過去にアルド達が解放したどのマナスポットより大きいんだ。当然ながら主も過去最強だと思って良い。ちゃんと準備してからなら、僕だって何も言わないよ。大きなマナスポットを解放するのは喜ばしい事なんだから。でも今は小さな物を沢山 解放して、ギフトを集めて強くなるのに注力すべきだ。ここの解放はその後だよ」
「お前の言う事は分かる。でも国外追放の期限が過ぎて、オレはもうフォスタークへ帰れるんだ……何よりオリビアの出産も終わってる……一刻も早くブルーリングへ帰って、子供の顔を見たいんだ。頼むよ、アオ」
「もぅ……言い出したら聞かないんだから……本当にアルドは……」
「じゃあ、協力してくれるのか?」
「先ずは主を確認するだけだよ! 倒せそうに無い時は、僕の言うことを聞いてもらうからね!」
「分かった! 恩に着る。ありがとう、アオ」
アオは露骨に特大の溜息を吐き消えていった。
「兄さま、やっぱりこのマナスポットを解放するんですか?」
「ああ、そのつもりだ……お前は反対か?」
「正直分かりません……ここが解放できれば、位置的にこれから先も非常に役に立つとは思います。ただアオがあそこまで言うのは初めてで……」
「確かにアオが言う事も分かる……オレも闇雲に言ってるわけじゃないんだ。実際に主を見て、無理だと判断したら諦めるよ。無茶はしないから、今回は我儘を聞いてくれないか?」
「分かりました。ドゥオ大陸を旅して3ヶ月……僕もそろそろブルーリングが恋しいので」
「ありがとな、エル。カズイさん、聞いていたと思いますが、ここのマナスポットを解放しようと思います。恐らくギリギリの戦いになるかと……出来れば近くの安全な場所で、待機してもらえると助かります」
「え? 僕は留守番なの?」
「アオがあそこまで言うんです。戦うとしても、きっと楽には勝てません……申し訳ないですが……」
「……そっか。僕だと足手纏いになるんだね……うん、分かったよ。最悪は空で待つ事にするね」
「すみません……」
「謝らないで。本当は僕も手伝わないといけないのは分かってるんだけど……アルド達の邪魔になっちゃいけないからね。僕の事は考えなくて良いから。でも危ないと思ったらちゃんと逃げてね? アルド達がいないと、世界が終わっちゃうんだから……」
それ以上は何も言わず、小さく頷いて返事を返しておいた。
◇◇◇
マナスポットを解放すると決めて2日。オレ達は小高い丘の上に立ち、眼下に見える異様な光景に言葉も無く立ち尽くしていた。
「兄さま……これは……」
エルがこう零したのには訳がある。
丘から見える景色は、一面に粗末な建物が建っており、何が主なのかは嫌でも分かると言うものだ。
「コボルトか……」
そう。建物と言うにはみすぼらしいが、確実に自然に出来た物では無い。それが一面……フォスタークの王都ほどの広さを覆っているのだ。
一体、何匹いるのか……考えるだけでも嫌気がさしてくる。
「コボルトは頭が犬の魔物だ。匂いで気付かれるとマズイ。少し下がろう」
「分かりました……」「分かったよ」
エルとカズイを連れ1キロほど下がって、近くの石に腰かけた。
「兄さま……あれと戦うつもりですか? きっと1000や2000じゃ利かない数ですよ?」
エルはこう言うが、オレは意外といけるんじゃないかと思っている。
何故か? 過去、ブルーリングが襲われた時、ゴブリンの数はあのコボルトとタメを張る規模だった。
であれば、あの時と同じ……相手からすれば、理不尽極まりない攻撃手段をオレとエルは持っている。
「エル、少し落ち着いてくれ。オレもあの規模には驚いたが、過去にはブルーリング……サンドラでも。圧倒的な数の暴力を圧倒してきただろ?」
エルも気が付いたのか、驚いた顔で1つの魔法の名を口にする。
「コンデンスレイ……」
「ああ。またあのクソ蝶の魔瘴石に頼る事になるのは気に入らないが、オレ達には数の暴力を覆せる圧倒的な魔法がある。しかも、さっきの丘からなら、狙撃に最適だ」
「確かに……でもさっきの丘は領域の中でした。魔瘴石を使っても1時間しか領域を作れないですよね?」
「お前の言う通り、そこは懸念材料ではある。ただ、今のオレ達なら1人で4発……狙撃の後、主と戦う事を考えれば、撃てて2発か……2人で4発はコンデンスレイを撃てるんだ。それに領域があれば、最悪はブルーリングへ飛んで逃げる事も出来る」
「あ、そうか。領域を作れば飛べるんですね。だったら母さまやアシェラ姉にも、応援を頼めるじゃないですか」
「うーん……それはどうかな。オレもアシェラや母様にも手伝ってもらいたいが、流石に1時間の制限があるんじゃ難しいと思う。いきなりブルーリングへ飛んで「今からコボルトの巣を落とします」って言っても、アシェラ達にも準備が必要だ」
エルは喜んだ顔から一転、何かを考え始めてしまった。カズイは今回、一歩引いているのか、何も口を開こうとはしない。
暫くの沈黙の後、エルはゆっくりと話し始めた。
「兄さまの言う事は尤もです。確かにアシェラ姉達にも準備の時間が必要でした……だったら、今回の戦いは僕達だけで行う必要があります……兄さまの言う通り、コンデンスレイがあれば、数の不利は覆せるでしょう。それでも僕が不安なのは、主の強さ。あの規模の群れを束ねる主……ゴブリンエンペラーを越える強さを持っている可能性が高いです」
「そうだな。雑魚は問題無いとしても、主……それに間違い無くいるだろう上位種の存在……分かった。一度、空から範囲ソナーを打とう。無理そうなら撤退だ」
「え? 良いんですか?」
「アオと話した時にも言っただろ? 難しいって判断したら撤退するって。残念だとは思うが、こればっかりはしょうがない。命のやり取りをするんだ。安全マージンは確保しないとな」
そこからは、少々 細かい作戦会議を開く事になった。
王都に匹敵する規模の巣である以上、一度の範囲ソナーで全てを調べる事は不可能だ。
街を南と北に分け、エルと手分けして虱潰しで探索をかけていく。恐らく3~4回ずつ範囲ソナーを打てば、全てを調べる事が出来るだろう。
しかし、エルと合わせて6~8回の範囲ソナーか……総数は何匹になるのか……
ゴブリンエンペラーの時も思ったが、水は兎も角、一体 食料をどうやって調達してるのか……もしかしてマナスポットがあれば、ある程度 飢えは抑えられるのか?
次、アオに会ったら聞いてみよう。「そんな事、僕が知ってるわけ無いじゃないか!」と怒られる未来が見えるが、知らないのだからしょうがない。
そんな詮無い事を考えて、計画は始まったのである。
◇◇◇
調査に2日も時間をかけ、今 得られる情報は全て取り終わった。
「ふぅ……これは、思ってたより良いのか悪いのか……判断に迷うな」
オレがこう零すには訳がある。エルと手分けして、範囲ソナーで調べた結果、コボルトの総数はおよそ10000から15000。上位種に至っては10種類以上が500匹以上いたのだ。
その上位種の1匹を、カズイに1日 観察してもらって分かった事は、上下関係の先……原始的ではあるものの、この巣はある程度 組織的に生活が営まれてる事実であった。
コボルトはゴブリンと変わらない程度の知恵しか持たないはずなのに……やはり上位種と主の存在が大きいのだろう。
この数が組織的に動くだと? 撤退……頭を2文字がよぎる中、集まった情報にはオレ達にとって僥倖とも呼べる物があった。
それは今日の昼の事。エルが空間蹴りでコボルトの巣を調べていた際、ふと思い付いたそうだ。
それは寿命……これだけの巣を作るのに、1年や2年で足りるはずが無い。きっと数年……10年近くはかかったはずである。
しかし主の寿命は数年で尽きてしまうとアオは言っていた。ではどうやって……
不思議に思ったエルは、その場でアオを呼び出して聞いてみる事にしたそうだ。
「うわ! 何だ、このコボルトの数! エルファス、やっぱりここのマナスポットを解放するなんて、絶対に無理だよ! アルドに言って、直ぐにでも離れよう!」
「流石に僕も、今回は難しいと思ってるよ。今日の野営の際に、兄さまへ話してみる」
「そぅ……それなら良いよ。この規模に3人で挑むとか……ちゃんとエルファスが止めてくれないと。本当に、頼んだからね?」
「ああ。それと少し気になる事があるんだ。良いかい?」
「ん? エルファスが質問とか……珍しいね。僕に分かる事なら答えてあげるよ」
「それじゃあ。この規模の巣を作るには………………」
こうしてエルが聞いた内容はこうだ。
主の基本的な習性は、元になった魔物に準ずるのだそうだ。それはそうだろう、今まで倒してきた主も、種族から逸脱した者はいない。
エルも「何を当たり前の話を?」と首を傾げたと同時に、アオは言い放ったそうだ。
「たぶん世代交代してるんだよ。今の主が死ぬと、息子か近しい者かは知らないけど、新しいコボルトが主になるんだ。そもそも、これだけの巣に他の魔物が入り込めるわけ無いしね」
聞いてしまえば納得の話である。恐らく原始的ではあるが、ここは1つの社会を形作っているのだろう。
ここにいるのは、大きいとは言え1つのマナスポットしか得ていない主……いや違う。1つのマナスポットしか得るつもりのない主がいると言う事だ。
更にエルが聞いた話では、こうしてマナスポットを継承した主は、巣に閉じこもって一生を終える事は多いのだとか。
うーん……引きこもりの主……据え膳で誰からも何も言われないなら、そう言う事もあり得るのか?
「恐らくまともに戦った事も無いんじゃないかな?」と言うのが、アオの見解だったそうだ。
「圧倒的な数の暴力と引きこもりの主……これはどう考えれば良いんだ?」
オレの言葉に、エルとカズイは眉根を下げて唸っていたのであった。




