484.ハク 弐 part3
484.ハク 弐 part3
「ハクさん、教えてください。動物の主であるハクさんは、下級精霊にどこまでのチカラを貸してもらえるんですか?」
『ん? 我が下級精霊のヤツ等にですか……それはアルド様のお子が関係しているのですかな?』
「はい……どうやらハクさんと同じように、僕の子供も精霊にチカラを貸してもらえるようなんです。分別がつくまでは、アオにそのチカラを封印してもらっているのですが、10歳になった時点で禁を解くつもりです。その際の参考にさせてもらえればと思いまして……」
『なるほど、お話は分かりました。アルド様の頼みとあらば、我のチカラを話す程度、何の問題もありませんぞ』
「ありがとうございます、ハクさん」
『なんのなんの。アルド様には世界を安定に導いてもらわねばなりませんからな。この程度、お安い御用です。しかし、我の話が参考になるかは分かりません。そこはアルド様が判断してくだされ』
「分かりました」
『では……我のチカラと言っても、実は下級精霊のヤツ等に頼み事をしているだけなのです。どこまでのお願いを聞いてもらえるかは、その時 次第と言うのが実情です。例えば、「森に雨を降らせてほしい」とヤツ等に頼んだとしましょう。機嫌が良い時には喜んで降らせてくれ、木々が流される寸前までの時もあれば、パラパラと数滴 雫が落ちてくるだけの事もありまして。ヤツ等は気まぐれ故、毎度 同じような結果にはならないのです』
「同じ願いでも、そんなに結果が違うんですか……うーん、これは少し困ったかもしれません……」
『そうなのですか? 我は森の水やりを頼む程度ですからなぁ。十分な雨が降るまで、何度も頼んでいるのが現状です」
「何度もですか……雨であれば、それで問題無いでしょうが、戦闘に使うには難しそうですね」
『戦闘ですか……なるほど……それは我も気付きませんでした。確かに火や風の下級精霊であれば、戦闘で頼りになるかもしれませんなぁ』
「ただ効果が安定しないと、戦闘では難しそうですね……」
『うーん……効果が安定しない……我が思うに、そこは願いを聞く精霊の性格に由来すると思いますぞ』
「下級精霊の性格ですか?」
『左様です。アヤツ等もなかなかに色々な性格の者がおりましてな。素直に言う事を聞いてくれる者から、渋々動いて来る者。酷い者だと対価を要求する者までおります故』
「そうなんですか? でも対価って……下級精霊が望む物って、想像もできません」
『大抵は面白い話を聞かせろと言われますな。最近はアルド様の話を聞かせれば、殆どは喜んで言う事を聞いてくれますぞ。極稀に酒を出せと言う、変わり者もおります。まぁ、我からすれば大した量では無いので喜んでくれてやりますが』
「僕の話とか……でも精霊って酒を飲むんですね……」
『どこぞで酒を飲む人を見て、興味を持つのでしょうなぁ。しかし、アヤツ等は酔う事など無いので、いつも酒を振舞った後は、顔を顰めて首を傾げておりますぞ』
「なるほど。子供が親の晩酌に興味を持つようなものですか」
『うーん……我にはその感覚は分かり兼ねますが、それだけ人に興味があるのでしょう』
使徒になってだいぶ経つが、未だに精霊と言う物が分からない。
ハクさんの話から、下級精霊とは小さな子供のようなモノに感じるが……
結局、ハクさんでも妖精族が下級精霊から、どれだけのチカラを借りられるのかは分からなかった。
やっぱり、話はサナリスが10歳になって封印を解いてから……しょうがない。
「ハクさん、色々とありがとうございました。子供達が10歳になったら、また何か教えてもらうかもしれません。その際にはよろしくお願いします」
『こちらこそお役に立てず申し訳ない。我で分かる事であれば、何でも聞いてくだされ』
「下級精霊のチカラは安定しない」これが知れただけでも助かると言うものだ。
知らなければ、将来 精霊のチカラにバラツキが出た際、頭を抱える事になっていただろうから。
◇◇◇
昨晩は以前話していたハクさんの秘蔵の酒を振舞ってもらい、楽しい時間を過ごさせてもらった。
ハクさんが言うには、お気に入りの果物を木の洞へ運び、熟成させて作ったのだとか。
これだけの巨体を持つ白蛇が、小さな果物をせっせと運ぶ……うーん、シュールだ。
正直、アルコール度数はお察しだったものの、元の果物の味が残り想像よりずっと美味かった。
次にここを訪れる際には、お返しに人の世界の酒を幾つか持ってこようと思う。
「ハクさん、色々とありがとうございました」
『いえいえ、我は大した事は何もやっていません。。秋にはドングリの酒を仕込みますので、近くに来られた際にはまた寄ってくだされ。渋みがクセになる味ですぞ』
「そうなんですか。僕もお返しに、人の世界の酒を持ってきますね。では行きます、また会いましょう」
『人の世の酒ですか……楽しみにしてさせてもらいます。また何時でも来て下され、歓迎しますぞ』
こうして再会を約束し、ハクさんの下をお暇したのであった。
次にオレ達が向かったのは、直撃では無いものの、コンデンスレイに耐えてみせたオーガのマナスポットである。
既に証は端から崩れており、元の半分ほどしか残っていない。きっと後数か月も経てば、朽ちてしまうのだろう。
「エル、カズイさん、オーガの主がいたマナスポットを解放しにいきましょう」
「はい」
「あの時のオーガか……アルドがいきなりコンデンスレイを撃った時だよね? そう言えば白蛇さんの森、だいぶ緑が戻ったね。あの時は森がかなり燃えちゃって、白蛇さん、半泣きで火を消してたから……」
あー、カズイさん? 余計な事は思い出さなくても良いのです! 男は過去を振り返っちゃいけないのだ! 前だけ見て進んで行くのだぁ!
敢えてカズイから視線を逸らし、何も答えずにマナスポットを目指していく。
アオから聞いた話では、オーガの主のマナスポットはここから2日ほどの距離にあるのだとか。
今回は主との戦闘が無いのは分かっている以上、出来ればサッサと解放して開拓村で休みたい。
オレ達は誰からともなく、徐々に歩く速さを上げていくのだった。
◇◇◇
オーガの主のマナスポットを解放して、ブルーリングに帰ってきた。
いきなり開拓村に飛んでも良いのだが、あっちは普段 誰も住んでいない。祖父さんへの連絡もあるため、領主館へ飛んできたのだ。
先ずは帰って来た事を知らせるため、範囲ソナーを最大の1000メードで打つ……お、アシェラ達は自宅か……3人揃ってこっちに向かっている。
マールはどうやらサナリス君とお昼寝中だったか? 範囲ソナーを感じているだろうに、動く気配は無い。
「エル、アシェラ達がこっちに向かってる。マールとサナリス君はお昼寝中かな?」
「マールは頑張り屋ですから。無理に起こす必要はありません。寝かせてあげましょう」
「1週間はこっちにいるんだし、それもそうだな。アシェラ達が来たらお祖父様へ報告をして、開拓村へ飛ぼう。因みにカズイさんは、休みの間はどうするんですか?」
「僕? 僕はオクタールへ行こうと思ってるかな……久しぶりにクリューの顔も見たいしね」
「お、クリューって例の娘ですよね? 確かオクタールの神官でしたっけ?」
「う、うん。まだ見習い神官だよ。オーガが襲ってきた時も、お使いで領都まで出かけてたお陰で助かったみたい」
「なるほど……人生、何がどう転ぶか分からないですね……」
「本当に……犠牲になった人には悪いけど、クリューが助かって本当に良かったよ……」
カズイは少し寂しそうにしながらも、心の底から安心している。
この話題はこれ以上 引っ張らない方が良いだろう。オレは話を変えるように、努めて明るく話しかけた。
「次にオクタールに行く際には紹介してくださいね。しっかりカズイさんの良い所を伝えますから」
「や、止めてよ。く、クリューとはまだそんな仲じゃないんだから……でもちゃんと紹介はするから。クリューも「御使い様のお言葉を拝聴したい」って言ってたからね」
う゛っ……そのセリフ……オレの苦手なタイプじゃないのか?
友人の彼女に拝まれるとか……絶対に嫌なんですけど……そこんとこ、頼みましたよ、カズイさん。
心の中で盛大に突っ込んでいると、慌ただしく階段を降りてくる音が聞こえてくる。
「アルド! おかえり!」「アルド、無事で何よりです。お帰りなさい」「アルド君!」
「ただいま、アシェラ、オリビア、ライラ。オリビア」
アシェラは正面から抱き着き、ライラは背中から抱き締めてくる。オリビアだけは少し離れた場所で、そんなオレ達を優しい目で見つめている。
「オリビア、お腹、だいぶ大きくなったなぁ……」
「はい。ルーシェさんの話では、後1月ほどで生まれくるそうです」
「後1ヶ月……そうか……1ヶ月……」
この場の全員が、オレの気持ちを痛いほど理解してくれていた。
国外追放の沙汰が出て10ヶ月と少し……どう計算しても、オレは出産には立ち会えないのだ。
確かに出産に際してオレがいても、何の役にも立たないのは事実である。
しかし、何か緊急事態が起こった場合、現代医学の知識が使えるかもしれない……いいや、そんな理由は後付けで、オレ自身が産まれて来る我が子の顔を見たいのだ。
皆がどう声をかけて良いのか……辺りが沈黙に包まれる。
「アルド、そんな顔をしないでください。絶対に丈夫な子を産んでみせますから。ですから後少し……後少しだけ、我慢してください」
「オリビア……でもお前だって1人じゃ心細いだろ? そうだ、開拓村なら……」
オリビアは諭すように、ゆっくりと首を振りながら口を開いた。
「マナスポットを使う以上、医者や看護婦を全て開拓村へ連れて行くわけにはいきません。ですので出産は予定通り、アルドが一生懸命用意してくれた自宅で行うつもりです。それに私は1人ではありませんよ? アシェラにライラ、マールにお義母様、沢山の人が手を差し伸べてくれています。ですから、アルドは安心して自分のすべき事をしてください。そうでなければ、私はアナタの重荷になってしまいますから……」
「重荷って……オレはそんな事、思ってない!」
「フフ……分かっています。ありがとう、アルド」
オリビアはこう言うが、オレは納得など出来ていない……でもどうしたら……
「兄さま、先ずはお祖父さまへ旅の報告をしましょう。子供の件は開拓村で改めて……」
「分かったよ……アシェラ、オリビア、ライラ、直ぐに行くから開拓村で待っててくれ……」
「分かった」「分かりました」「アルド君……」
出産の件は後回しにさせてもらって、重い足取りで祖父さんの下へと向かったのであった。




