479.2つ目の開拓村 part1
479.2つ目の開拓村 part1
新たな街を作るため、マナスポットの解放にやってきた。
ここまでの道のりで分かった事……この街を作ると言うのは、一筋縄ではではいかないと言う事実である。
いや、違う……街はマナスポットを利用するのなら、開拓村より順調に作れるだろう。問題は街道。開拓村から新しい街までの街道を敷くのが難しいのだ。
ここまでの道のりは、最初の2日で森を抜け残りの5日間は見渡す限りの草原であった。
森の部分をオレとエルのコンデンスレイで焼き払えば、大して手間も無く街道が通せると思っていたのだが……マナスポットの2キロほど手前に大きな川が姿を現したのだ。
その幅は100メードでは効かないだろう。将来、治水のための堤防を作る事を考えれば、対岸までの距離は倍の200メードもの距離がある。
この中世の科学技術しか持たない世界で、どうやって200メードもの橋を作るのか。
うーん……困った。これだけの距離、石を積んだだけの橋脚で耐えられるのか?
水に流されないようにするためには、大岩を沈めて川の中に小島を作り、そこに石造りの橋脚を作る……不安しか無いな。
これは一度、父さんか祖父さんに相談しよう。オレが知らないだけで、コンクリートのような建材があるのかもしれない。
現にこの世界でも、川に橋はかけられているのだから。
橋の件は保留にして、改めてマナスポットの解放に意識を切り替えた。
「さて皆さん、ここはもう領域の中です。後300メードも進めばマナスポットが見えてくるかと」
「じゃあ、ちゃっちゃと倒しちゃいましょ。今回は私もアシェラもライラだって、チビちゃんのドラゴンアーマーを着てるんだから、少々の攻撃なら問題無いわよ」
「うん! このドラゴンアーマー早く使ってみたい!」
「うんうん。風竜より少し重くなったけど、この鎧 凄く魔力の通りが良い」
ウチの女性陣は何て攻撃的なんだろう。出来れば軽く偵察をしてから攻めたいと思ってたのに……
「ハァ……エル、範囲ソナーを使う。何が出るか分からないからな。万一の場合、お前の盾が頼りだ……」
「……分かりました」
エルと2人、苦笑いを受かべながら最大の範囲ソナーを1つ打った……むむむ……この感じ……何処かで……
数舜の思考の後、思い出したのはまだ学生だった頃、「爪牙の迷宮」で散々 手古摺らされた「スライエイブ」の反応であった。
「え、エル、アシェラ……この反応……たぶん敵はスライエイブだ……」
「え? スライエイブって.……爪牙の迷宮で戦った、あのスライエイブですか?」
「……あのサル……ボクは2度と見たく無いかも」
もう何年も前の話だが、オレ達3人は迷宮探索のイロハをナーガさんから叩き込まれた。
その際、非常に鬱陶しい挙動をする、スライエイブを練習相手に指定されたのだ。
追いかければ逃げ、無視しても昼夜関係なくちょっかいをかけられる……オレだけで無く、エルとアシェラも額に青筋を浮かべていたのを思い出す。
出来れば2度と会いたく無かったが、これも運命なのだろう。しょうがない、あの時の雪辱を晴らすとしますか。
「エル、アシェラ、オレもアイツ等の顔は2度と見たく無かったが、主だって言うならしょうがない。あの時の恨みをノシ付けて返してやろう」
「しょうがありませんね。後は主がどれぐらい強化されているのか……」
「分かった。あの時よりボクも強くなってるはず! 借りは倍にして返す!」
3人で嫌な記憶に蓋をして、気合を入れ直している中、母さんの声が響く。
「アンタ達、今回は迷宮探索じゃないんだから、各々 自由に動けるのよ。行動を縛られないのなら、スライエイブ程度 大した相手じゃないでしょ? 尤もアイツ等、悪知恵が働くから、油断できないのは事実だけどね」
確かに母さんの言う事は尤もだ。以前あれほど苦戦したのは、勝手な行動が出来なかったからであって、単純な戦闘力であればあの頃でもオレ達の敵では無かった。
「分かりました。今回はチビさんの守りの壁があるので、雑魚は各個撃破。主だけ共闘するって事ですね?」
「ええ。それがアナタ達には一番 戦い易いでしょ? 群れでさえ圧倒できる個の実力があるなら、纏まって戦う意味なんて無いもの。但し、スライエイブは追い込まれると、見境なく特攻してくる事があるから、そこは注意しなさい。良いわね?」
「そうなんですか? 分かりました、気を付けます」
そうか……スライエブは群れが全滅の危機に晒された場合、やぶれかぶれの特攻をしてくるのか。
まぁ、アイツ等 程度なら気を付けていればどうとでもなるが……問題は主だろうな……
「じゃあ、行くわよ。サッサと倒さないと、夕食の時間に間に合わなくなっちゃうわ」
戦闘前に夕飯の時間を気にするとか……飄々としている氷結さんを先頭に、オレ達はマナスポットへ向かったのである。
◇◇◇
スライエイブの巣を攻めるのに、今回取った戦法は挟撃である。
相手が空を飛べないのが分かっている以上、母さんとライラがわざわざ相手の攻撃が届く距離に近づく必要は無い。
かといって、一緒に攻め入っても、今度はオレ達が邪魔で2人の火力を十全に発揮できない。
結果、母さんとライラの2人は、一度 巣を越え西側から。オレ達は東側から攻める事になった。
合図はオレ達が先に攻めるので、母さん達には背後を急襲してもらう事になっている。
「アルド、そろそろお師匠達は配置についたと思う」
「そうだな……攻める前に最後の確認だ。主とは1対1で戦わない事。危ないと思ったら、空へ退避する事。西側は母様達が奇襲をかけるから、邪魔にならないようにする事。良いよな?」
「はい。大丈夫です」
「アシェラも。絶対に主と1対1で戦おうとなんてするなよ? 信じてるからな?」
「……うん?」
おま、絶対に1人で特攻するつもりだっただろ……本当に止めてくれよ? 頼むよ、アシェラさん……
「絶対にダメだからな。もし約束を破ったら、アシェラだけプリン抜きだぞ」
アシェラは、何故か劇画調の顔になって衝撃を受けている。
「それはダメ! プリンはどんな時も平等であるべき!」
「おま、やっぱり1人で突っ込むつもりだったんじゃねぇか! 絶対にダメだぞ!」
オレとアシェラの言い合いを、エルは呆れた目で見つめていたのだった。
「じゃあ先頭はエル、アシェラはシンガリだ。行くぞ!」
「はい!」
「あの時の恨みを晴らす!」
エルが盾を構えながらスライエイブの巣へ突っ込んでいく。
オレとアシェラは、その陰に隠れるように張り付いている。うーん、これは……伝説のジェット〇トリームアタックじゃないか! って事は2列目のオレって、もしかして殺られちゃうの?
くだらない考えを、頭を振って振り払う。イカンイカン、真面目にやらないと……
そうしている間にも、エルが最初のスライエイブへリアクティブアーマーをぶち当てている。
腹に響く低音と共に、オレとアシェラはエルの陰から飛び出した。
「先ずは数を減らす! 主がいつ現れるか分からない。なるべく固まって倒すぞ!」
2人は小さく頷いて、それぞれ目の前のスライエイブへ突っ込んでいく。
オレも負けてはいられない。兄として、夫として、情けない所を見せるわけにはいかないのだ!
心の中で謎の気合を入れ、バーニアを最大で吹かす。
遅い! すれ違いざま、魔力武器(片手剣)を発動し、驚いているスライエイブの首を刎ねてやった。
先ずは1匹……
コイツ等は魔法を使えない。近い敵は短剣で、遠くの敵はウィンドバレット(魔物用)をバラマキ、確実に数を減らしていく。
いきなりの奇襲に驚いていたスライエイブ達だったが、既に最初の動揺は無い。しかしオレ達の圧倒的な攻撃力に気付き、徐々に逃げの体制へと変わっている。
逃げに回られると厄介だ。散れば当然ながら、効率良く倒すのは難しくなる。
どうしようかと悩み始めた頃、オレ達の前方で戦闘音が鳴り響く。
母さんとライラが奇襲をかけたのか……早すぎず遅すぎず、ベストのタイミングだ。
流石は氷結の魔女と紫の少女。普段はポンコツな2人であっても、こと戦闘となれば抜群のセンスを発揮する。
「エル、アシェラ、母様達が攻撃を始めた! 今がチャンスだ。一気に押し込むぞ!」
「はい!」
「分かった! お師匠とライラには負けない!」
ギアを1つ上げ、一層圧力を強めたオレ達に、スライエイブ達は連携する暇すら無く倒されていく。
そろそろ仕上げか? 群れの殲滅が見え始めた頃、群れの奥から一回り大きなスライエイブが姿を現した。
主……他の個体とは違い、見える姿は白。真っ白な体毛の中、怒りで真っ赤に染まった目だけが、爛々と輝いている。
その姿と先ほどのソナーで分かる事……恐らくそこまで大きな脅威は無いと思うが……未だに主がどんな能力を持っているかは未知数だ。
既に群れの殲滅は時間の問題である以上、残りの掃除は母さん達へ任せるべきだろう。
後で文句を言われるのは確実だが、オレはコイツの相手に注力するべく、アシェラとエルへと口を開いた。
「エル、アシェラ……やっと主のお出ましだ。残りの雑魚は母様達へ任せて、オレ達はコイツを倒すぞ。良いな?」
「はい! 兄さまとアシェラ姉は僕の後ろへ。先ずはコイツの能力を丸裸にします」
エルはそれだけ言うと、盾の上に魔力盾を発動し、主へ真っ直ぐに突っ込んでいく。
主の膂力は他のスライエイブとは一線を画していた……腕を振るう度に、ドンッっと腹に響く音が鳴り響いている。
そんな攻撃を受け続けているエルは……盾を構えつつ、涼しい顔で全ての攻撃を受け流していた。
あの攻撃を真正面から受けて、何であんな余裕が……
数舜の思考の後、少し前の出来事を思いだした。
あ……チビさんとの戦闘の後、左腕を改造したから……魔力操作も身体強化も一段 上がってるのか……
目の前の光景に合点がいった。
こんなにもエルの地力が上がっていたとは……驚きと少しの羨望で呆然とするオレへ、エルが口を開く。
「兄さま、コイツは膂力だけです。駆け引きも速さも、スライエイブに毛が生えた程度。僕達の敵じゃありません。グリフォンみたいに逃げられないよう、最速で片づけましょう」
「わ、分かった。オレがソナーを打つ。お前は主の気を引いてくれ」
エルが小さく頷いたのを見て、オレは主の背後へバーニアを吹かした。
先ずは証の位置を調べる……1回……2回……
主はエルの相手で精一杯であり、ソナーを打つオレを鬱陶しそうに見つめるだけで、攻撃らしい物は一切 飛んでくる事は無い。
そうして計5回のソナーで分かった事……コイツの証は額。証を奪うには、首を刎ねるのが最も簡単だと言う事実であった。
「エル、アシェラ、コイツの証は額だ。もう少し弱らせてから首を刎ねるぞ!」
「分かった! ボクが弱らせる!」
もしかしてアシェラさん、暇だったんですかね? 証の位置が分からないと、アシェラはまともに攻撃できない。
闇雲に魔法拳でも撃ち込もうなら、証ごと吹き飛ばしかねないからだ。
きっとオレとエルを悶々と見ていたのだろう。アシェラは目を輝かせながら、主へと吶喊したのであった。




